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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

高野先生ががんになったら抗がん剤治療を受けますか?

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高野先生ががんになったら抗がん剤治療を受けますか?

イラスト:さかいゆは

 今回も中学生からの質問です。

 「『自分ががんになったら』と考えたことはありますか?」

 「高野先生ががんになったら、抗がん剤治療を受けますか?」

 中学生や高校生への「がん教育」で、私は、がんというのは、特別な人だけがかかる特別な病気ではなく、誰もがなりうる病気だという事実を伝え、自分の問題として考えることが重要だと説明します。やや重いメッセージかもしれませんが、生徒の皆さんは、きちんと受け止めて、自分自身や、自分の大切な人ががんになる日のことも想像してくれているようです。そんな中学生からいただいた、この質問。私自身も、自分の問題としてきちんと考えようと思います。

がんになった人の気持ちを「わかる」のは難しい

 腫瘍内科医として、また、この世に生を受けた一人の人間として、「自分ががんになったら」というのは、よく想像します。がんとともに生きる患者さんと日々接していますので、他の皆さんよりも、そんな想像をする機会は多いと思います。

 がん患者さんからも、「高野先生が私と同じ状況だったら、どうしますか?」という質問はよく受けます。

 一方で、「でも、高野先生はがんにはなっていないのだから、がん患者の本当の気持ちはわからないですよね」と言われてしまうこともあります。確かに、「がんになった自分」を想像することはあっても、実際にはがんを患っているわけではないので、本当の気持ちは理解できていないのだと思います。

 一人ひとりの感じ方や考え方は様々ですので、たとえ自分ががんになったとしても、自分とは違う患者さんの気持ちを「わかる」のは難しいとも思います。できるだけ患者さんの立場に立って、気持ちをわかろうとし、その気持ちに配慮したいと思っていますが、安易に「その気持ちよくわかります」なんて言えませんし、もしそう言ったとしたら、患者さんは、「お前に何がわかるんだ」と感じてしまうと思います。

自分がやらない治療は勧めない

 私は、「自分が同じ状況だったら」という話を自分からすることはありませんが、心の中では、自分が同じ状況だったらどのように考えるか、という想像は常にしています。そして、こちらから何かの治療を提示したり、勧めたりするときは、「自分だったらこれを選ぶだろう」と思う治療を念頭にお話をしています。私は不器用なので、「自分だったらやらないだろうな」というような治療を患者さんに勧めることはできません。

 「高野先生が私と同じ状況だったら、どうしますか?」という質問を患者さんから受けたときには、それはもともと考えてあったことですので、自然な反応として、「私もこの治療を選びます」とお答えします。

 患者さんにとっては、何もかも初めての経験で、急に判断を迫られても簡単に決められるようなものではなく、目の前にいる担当医の意見を聞いてみたくなるのは、当然のことでしょう。専門家としての意見だけでなく、一人の人間としての判断も求めているんですね。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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