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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

危険な用水路…一瞬の隙をついて子どもは家からいなくなった

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 これまで、川や海での溺れについてお話ししてきましたが、今回は用水路での溺れについてお話しします。農地の宅地化に伴って、農業用水路が住宅地を流れている地域は少なくありません。そのために、悲しい事故が起きています。

危険な用水路…一瞬の隙をついて子どもは家からいなくなった

イラスト:高橋まや

 最近の事例を見てみましょう。

事例1: 2022年5月28日午後5時40分ごろ、埼玉県 加須(かぞ)市の自宅から4歳男児がいなくなったと、家族から警察に通報があった。直前まで居間にいたが、姿が見えなくなった。30日午前6時前、用水路に男児がうつぶせに倒れているのが見つかり、死亡が確認された。用水路は幅約2メートル、水深約1.5メートルで、自宅から現場までの直線距離は約270メートル。

事例2: 2022年8月20日午後6時40分頃、富山県高岡市の自宅から2歳男児の行方がわからなくなった。一瞬のあいだに見当たらなくなり、勝手口が開いていた。当時は、市内は大雨で、自宅付近を流れる用水路は増水していた。男児が用水路に落ちた可能性があるとして、大がかりな捜索が行われ、9月4日、高岡市に隣接する氷見市の沖合で子どもの遺体が見つかった。DNA型鑑定の結果、この男児であることが確認された。

海・川に続いて多い死者・行方不明者数

 警察庁生活安全局生活安全企画課の「 令和3年における水難の概況 」で、2021年の水難による死者・行方不明者(744人)を場所別にみると、海(366人)、河川(253人)に続いて多いのが、用水路(67人)でした。

 用水路の事故が多いのは、やはり高齢の農業者です。「移動中に用水路をまたぐ際に落ちてしまった」「用水路脇の道路を歩いていて、つまずき、のり面を滑り落ちて、用水路に転落した」などの事故が見られます。

水深わずか十数センチで子どもは溺れる

 子どもも、ほぼ同じ状況で転落、転倒しています。水深は浅くても、水底で頭を打って用水路内で意識がもうろうとなり、そのまま顔が水につかって溺れます。

 幅も狭く、水深も浅い用水路で、なぜ子どもは溺れるのか。そのメカニズムを京大の岡本隆明助教(現名城大准教授)らが明らかにしています。身長1メートル20センチ、体重23キロの子どもに見立てた人体模型が水路に転落したと想定し、一般的な降雨時の流速(毎秒0・5~2メートル)で実験した結果、幅40センチの水路の底に座る格好で転落した場合、水深が十数センチで下流に流される恐れがあることがわかりました。水が体によってせき止められ、上流側の水位が高まり、押し流す力が増したのです。また、上流側に頭を向け寝た姿勢では、もとの水深が約10センチでも、頭の近くの水位が上昇し、口や鼻が水に沈む結果となりました。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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