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「梅毒」の患者、年1万人を超える恐れ…早期なら注射1回で治療できる新薬も
性感染症の「梅毒」の患者が増えています。今年は、現在の調査方法となった1999年以降で最多となっています。今年1月には早めの治療ならば1回で完治する新薬が登場しました。早期の検査と治療が大切です。(安藤奈々)
症状多様放置多く
梅毒は、「梅毒トレポネーマ」という細菌が原因で発症します。主に性的な接触により、性器や口、肛門の粘膜や皮膚の傷口から体内に菌が侵入します。コンドームで予防できますが、口に症状があるとキスでも感染する場合があります。
国立感染症研究所によると、9月4日までに報告された梅毒患者は8155人で、これまで最多だった昨年(7983人)を上回りました。年1万人を超えるペースで増えています。
戦後間もない時期には20万人以上の患者がいましたが、抗菌薬の普及で大幅に減りました。しかし、2010年代以降に再び増加に転じました。SNSを通じた不特定多数との性交渉の増加が背景にあるという指摘もありますが、詳しい理由はわかっていません。
性別では、男性は20歳代後半~50歳代前半、女性は20歳代の患者が多い傾向があります。半年以内に性風俗サービスを利用した男性、従事した女性がそれぞれ3~4割を占めます。
症状は、性器や口内の潰瘍、太ももの付け根のリンパの腫れのほか、体の一部や全身に広がる赤い発疹などです。何年もたってから心臓や血管、脳に障害が起きることもあります。
発疹が出る他の病気と似た症状のため「偽装の達人」ともいわれます。プライベートケアクリニック東京院長の尾上泰彦さんは「痛みやかゆみがない人も多く、放置して感染を広げる恐れもあります」と指摘します。
従来は服薬で対処
主な治療法はペニシリン系の抗菌薬で、1日3回、4週間ほど服用します。ただ、飲み忘れなど服薬を継続できない患者もいます。
今年1月発売の新薬「ステルイズ」は、同じくペニシリン系の抗菌薬で、尻の上部にある筋肉に注射します。感染からおよそ3か月以内ならば、1回で済みます。症状が進行した場合は週に1回計3回打ちます。
発熱や頭痛、注射した部位の筋肉痛などの副作用が出る場合もあります。
都内に住む会社員のA子さん(30)は6月下旬、体の広範囲に発疹があることに気づきました。病院を受診すると、血液検査で梅毒だとわかりました。数か月前に性風俗店に数回勤務したことがありました。
飲み忘れが心配だったA子さんは、新薬による治療を選択。注射の数時間後に38度台の発熱がありましたが、翌日には平熱に戻り、2週間で発疹が徐々に消失しました。1か月後の再検査で感染に関する数値が下がり、A子さんは「無事治療を終えられてほっとしました」と話しました。
若い女性の感染で懸念されるのが母子感染です。母親の胎盤を通じて胎児に感染する「先天梅毒」は、死産や赤ちゃんが障害をもって生まれることにつながります。日本性感染症学会理事の重村克巳さんは「疑われる症状がある場合、パートナーも一緒に検査を受け、治療が終わるまでは性交渉を控えましょう」と呼びかけています。
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