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大川智彦「先手を打って、病に克つ」

医療・健康・介護のコラム

脂質異常症、糖尿病、高血圧症…、すべて「薬なし」で克服した50代男性の「自覚」と「自律」

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 夏もようやく終盤です。今年は全国的に猛暑が長く続いたため、熱中症で医療機関を訪れる患者さんが後を絶ちませんでした。さらに記録的な降雨に見舞われ、長く、つらい時間を過ごされた方も大勢います。被害に遭われた方々に、心からお見舞いを申し上げたいと思います。

 これだけ暑い日々が続くと、食欲がなくなり、いわゆる「夏バテ」に悩まされる人が少なくありません。一方で、猛暑に加えて、新型コロナの第7波が追い打ちをかけたことで、外出を控え、運動不足で逆に太ってしまった人も多いようです。

 欧米の映画やテレビ番組を見ていると、肥満の人に向かって、登場人物が「コレステロールの取りすぎだ」などと 揶揄(やゆ) する場面が多く見られます。あまり日本では使わない表現ですよね。そもそも、「コレステロールが高い=肥満」は医学的に正しくなく、やせているにもかかわらず、血中のコレステロール値が高い人は多く見受けられます。ちなみに、かつては「コレステロール値が基準値よりも高い人」を「高脂血症」と呼んでいました。理由は後で説明しますが、2007年に日本動脈硬化学会がガイドラインを変更し、現在の診断名は「脂質異常症」になっています。

「いずれ、自分も…」と思っていたのに

脂質異常症、糖尿病、高血圧症…、すべて「薬なし」で克服した50代男性の「自覚」と「自律」

 私が勤務する医療機関で、K・Nさん(54)が健康診断を受診されたのは2018年6月のこと。兵庫県に本社を置く企業(製造業)に勤務し、この年の4月に栃木県佐野市の営業所長として単身赴任してきたばかりでした。

 会社の総務部から受け取った健康診断の報告書には「 必ず(・・) 医療機関を受診してください」と記されていました。それもそのはずで、空腹時血糖値は210mg/dl(基準値110以下)、HbA1cは7.2%(同5.5以下)、さらに空腹時採血でLDLコレステロール168mg/dl(同60~119)、中性脂肪387mg/dl(同150以下)。さらに、血圧も148/79mm/Hg(同130/85以下)と、報告書には「基準外」を示す「*」印がずらりと並んでいました。糖尿病に加え、LDLコレステロールと中性脂肪が基準値を大幅に上回っています。ちなみに、K・Nさんは身長170センチ、体重78キログラム(BMI:27.0)、腹囲91cmですので、一般的な肥満です。

 幸いにも、心電図では「異常なし」でしたが、やがて深刻な心疾患や脳疾患を起こす可能性が高く、とても放置できる状態ではありません。K・Nさんによると、毎年、会社の健診を受診し、10年前から「メタボ」と糖尿病予備軍(HbA1c5.6~6.4%)を指摘されてきたそうです。50歳になったときに、少し危機感を覚え、減量を試みたのですが、あえなく挫折し、「現代社会では、肥満なんか普通のこと」「予備軍だったら、まだ大丈夫」と自分に言い聞かせ、高をくくってきたようです。

 実はK・Nさんの父親は2型糖尿病からの心筋 梗塞(こうそく) で70歳のときに亡くなられていました。「いずれ、自分もヤバいかもしれない」と頭の中では思っていたにもかかわらず、働き盛りの時期の生活改善は簡単ではなかったようです。

 神戸の自宅に戻れば、妻と男の子3人(大学生2人と高校生1人)が待っています。家族の大黒柱が倒れるわけにはいきません。K・Nさんにとって、今回の転勤は一念発起する「グッドタイミング」でした。

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大川智彦(おおかわ・ともひこ)

 佐野メディカルセンター理事。1969年、名古屋市立大医学部卒。放射線腫瘍医として (がん) 研究会病院放射線科などで勤務し、英国留学後、94年、東京女子医大放射線科主任教授に就任。その後、徳洲会病院グループ放射線科部門長、東京西徳洲会病院副院長・検診センター長、佐野メディカルセンター予防医療センター長などを歴任し、2019年より現職。

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