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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

「がん放置療法」の近藤誠氏死去…医者に言われるままの医療に一石

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乳房温存治療が広がるきっかけに

 慶応大学の放射線科医である近藤氏がメディアで大きく注目を集めたのは、日本の乳がん治療への疑問の提起からでした。1988年、乳がん治療では手術で乳房を切除するのが当たり前だった時代に、「治癒率は乳房温存療法と同じなのに、乳房を切り取るのは外科医の犯罪行為ではないか」と、月刊誌『文芸春秋』に寄稿したのです。この論文は大反響を呼び、以後、まだ日本では普及していなかった乳房温存療法が広がるきっかけのひとつになりました。

 また、今では隔世の感がありますが、近藤氏が問題提起を始めた当時、がんは「死の病」のイメージが強かったことから、患者にがんを伝えないのが一般的で、胃がんを胃潰瘍とごまかして手術をしていました。その時代に、がんを患者に伝えることを強く主張したのも近藤氏です。

がんを放置するという主張へ

 日本の医療に優れたインパクトを与えたのですが、その後、「がんは切ってはいけない。放置しろ」と言い出したのです。「がん放置療法」といっても「なんでもかんでも切らずに放置せよ」ということではありません。彼のがんに対する認識は、がんには大きく分けると二つの性質があって、タチの良いものとタチの悪いものがあり、タチの良いものは「本物のがん」ではなく「がんもどき」なので、放っておいていいと言うのです。そして抗がん剤治療についても否定的な見解を示しました。

「がんの放置で悪化させた」と批判も

 自由な立場の開業医ではなく、日本を代表する大学のひとつ慶応大学所属の医師としての主張ですから、無視もできず、猛烈な反発を受け、医学的な反論も行われてきました。「近藤氏の言葉に従って、患者さんが標準治療を拒否して、早期のがんを進行させてしまった」「助かる可能性があった患者の命を奪った」といった医師の批判もありました。

 標準的ながん治療を否定し、その後は、生活習慣病治療など現代医療の全否定とも言える方向に突き進んでいきました。そして「患者よ、がんと闘うな」の後も、「医者に殺されない47の心得」など数々のベストセラーを生み出しました。私のところにがんで医療相談にくる方の多くは、彼の本を読んでいたので、その影響力に驚きました。

 「手術や抗がん剤治療など体への負担が大きい治療は避けたい」という治療を忌避する患者や家族の気持ちや、「主治医の説明には、どうも納得がいかない」と不信感を持つ人の心に訴える内容なのだと思います。

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。前新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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