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中咽頭がん のどのウイルス感染が一因…HPVワクチン 男性にも定期接種化求める動き
ウイルスや細菌の感染が原因で発症するがんが注目を集めています。のどの奥にできる「中咽頭がん」もその一つ。男性の患者が多く、かつては喫煙や飲酒が主な原因と考えられていましたが、米国では70%以上、日本でも約60%の患者がウイルスの感染により発症していることがわかってきました。既存のワクチンが予防に有効なため、定期接種化を求める動きもあります。(編集委員 今津博文)
男性患者多く
ウイルスなどの感染で発症するがんは、がん患者全体の4分の1を占めます。胃がんの原因となるヘリコバクター・ピロリ菌や、肝臓がんにつながるB型やC型の肝炎ウイルス、成人T細胞白血病を起こすHTLV―1などがあります。
中咽頭がんは、国内では年間推定5000人強が発症し、このうち約3000人がヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によるものです。子宮 頸 がんの原因となるウイルスとして知られていますが、中咽頭がんは男性に目立ちます。
HPVは口から入り、へんとうや舌根(舌の付け根)にある「 陰窩 」というくぼみの中で感染し、ここからがんができます。外性器に感染している相手との口内性交(オーラルセックス)によるケースが多いのですが、のどに感染している相手とのキスで唾液を通じて感染することもあります。
気付かぬうちに
日本では、健康な成人の約5%が、のどに感染しています。女性よりも男性が4~5倍多く、喫煙や飲酒などでのどの粘膜が荒れている人ほど感染しやすいことと関係しているようです。HPVは感染しても局所にとどまり、体の免疫で徐々に排除されます。このため多くは一過性ですが、感染を繰り返すうちに定着し、数年~数十年後にがん化すると考えられています。
がんは最初にへんとうや舌根にできますが、その時点ではわからず、首のリンパ節へ転移して初めて気付くことが多いのです。
代表的な治療法は抗がん剤と放射線を併用する化学放射線療法です。ウイルス性の中咽頭がんには放射線治療が効果的とされています。患者の状態によっては手術も選択肢になります。
問題は、深刻な後遺症です。痛みは治療から数か月で治まりますが、味覚障害や 嚥下 障害などは一生残り、うまく発声できなくなったり、唾液が減り虫歯が急速に進んだりする場合もあります。食事や会話に支障を来し、QOL(生活の質)の低下に苦しむ人が少なくありません。
欧米などでは30以上の国・地域で、HPVワクチンの男性への定期接種が行われていますが、国内では議論が始まったばかりです。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、国内でも女性に加えて男性への定期接種化を目指しており、日本産科婦人科学会とともに国へ働きかけていく方針です。
大阪大教授(耳鼻咽喉科・頭頸部外科)の猪原秀典さんは「HPVが原因の中咽頭がんは、治療後の再発は少ないのですが、長い間、後遺症と付き合うことになります。後遺症を軽減するには、できるだけ早期に気付き治療を始めること。普段からのどに違和感がないか注意し、気になったら早めの受診を勧めます」と話しています。
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