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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

腫瘍内科医をしていて、つらいことやうれしいことはありますか?

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腫瘍内科医をしていて、つらいことやうれしいことはありますか?

イラスト:さかいゆは

 今回も中学生からの質問です。

 「腫瘍内科医として、がんの患者さんと接していて、つらいことはありますか? うれしいと思うことはありますか?」

「喜怒哀楽」をともにする

 つらいことも、うれしいことも、たくさんあります。

 がんを抱える患者さんとともに歩むのが腫瘍内科医ですので、一人ひとりの患者さんの喜怒哀楽に接することになります。患者さんがつらい思いをしていれば、私もつらく感じますし、患者さんがうれしそうに語ってくれると、私もうれしく感じます。

 もちろん、患者さん自身が感じているつらさの方が、私が感じるつらさよりもずっと大きいもので、そのすべてがわかるわけでもないですし、すべてを解消できるわけでもありません。でも、痛みや苦しさなどの身体的なつらさや、不安や気分の落ち込みなど心のつらさをお聞きし、それを和らげる方法を考え、患者さんとともに取り組んでいくのが医療の原点です。

 痛みや不安が強くて、コントロールがうまくできないとき、医学の限界を感じることもあります。それは医者としてもつらいことですが、医学に限界があっても、できることを模索しながら、そばにいることが重要なのだと思っています。痛みをうまく抑えきれず、申し訳なく思う私に、笑顔を見せて、「いろいろやってくれてありがとう。先生がいてくれてよかった」と言ってくれた患者さんもいました。私の方が、患者さんから支えられているような気もします。

大事なイベントは最優先に

 患者さんには、つらいことは一人で抱え込まずに、全部しゃべってほしいと思っています。そして、つらいこと以外に、何かよかったことや楽しく感じたできごとがあれば、それも語ってほしいと思っています。診察室で、患者さんからポロッと楽しいエピソードを聞いたりするのは、とてもうれしいことです。

 患者さんからは、好きなこと、大切にしていることをお聞きして、直近の目標も話し合って、カルテに書き込みます。旅行の予定が決まったとか、ライブのチケットが手に入ったと聞けば、抗がん剤のスケジュールを調整して、その日に体調よく過ごせるように工夫し、子供の卒業式など大事なイベントがあれば、それを最優先に治療方針を考えます。

 厳しい病状で入院中の患者さんが、娘さんの結婚式に出席できるように、スタッフが知恵を出し合って準備し、実現したこともありました。そういうドラマチックなことから、ささやかな日常まで、普通に支えていきたいと思っています。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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