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「働きたい」を支える<上> 「不妊治療休暇」「短時間就労OK」…職場の制度を充実させ、「やめさせない」

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 子育て、介護、障害など、事情を抱えながら働く人が増えている。人手不足に頭を悩ませる業界も多い中、希望すれば仕事を続けられる環境を整えることは、社会的な課題といえる。様々な支援のあり方を現場からリポートする。

不妊治療休暇 最長1年

「働きたい」を支える<上>職場の制度充実「やめさせない」

洸希ちゃんを抱く金谷さん(鳥取市で)

 「職場にこうした休暇の制度がなかったら、この子と会えませんでした」

 鳥取あすなろ保育園(鳥取市)の保育士、金谷千紘さん(25)は、昨年12月に出産した長男の洸希ちゃんを優しい笑顔で見つめた。

 5年前から、保育士として働きながら不妊治療を続けてきた。市外の病院に月に2回ほど、車を運転して片道約1時間半かけて通っていた。

 「働きながら治療を続けるのは、体力面で負担が大きかった。急に入院の予定が入り、休みを取ることもあった」

 退職しようか、どうしようか――。迷っていた2020年5月頃、同園の山中照子施設長(52)らに相談した。福利厚生の資料で、不妊治療休暇があることは知っていた。

 いつから取得するかや、それまでの働き方などについて話し合い、金谷さんは同年9月から不妊治療休暇を取得した。「職場に制度があるおかげで相談しやすく、休みも取りやすかった」と振り返る。

 同園や高齢者施設などを運営する社会福祉法人「あすなろ会」がこの休暇を制度化したのは15年4月。浜崎淳子理事長(63)が高齢者施設の施設長だった頃、「不妊治療のため」と職員から退職の意向を伝えられたのがきっかけだった。自身も、会社員時代に不妊治療に通った経験があり、大変さは身にしみていた。

 浜崎理事長は「人がいないと成り立たない職場。せっかく入ってくれた職員にはできるだけ長く勤めてもらいたい」と狙いを語る。

 この休暇制度は、金谷さんを含め、これまでに3人が利用。休暇中は無給だが、最長1年間取得できる。その間の人員補充は、必要に応じて人事異動や新たな求人募集などで対応する。

両立できず離職16% 中断も11%

 厚生労働省の17年度の調査によると、不妊治療を経験した男女の16%が仕事と両立できずに離職。不妊治療をやめた人も11%いた。

 今年4月、不妊治療の保険適用が始まり、費用の負担は以前より小さくなった。ただ、同法人のような休暇制度はまだ珍しい。国家公務員については今年、不妊治療のために年に最大10日間の有給休暇を取得できる「出生サポート休暇」が制度化され、今後、民間への広がりが期待される。

 金谷さんは11月末に、育休を終えて職場に復帰する予定だ。「もしあの時、退職していたら、保育の仕事からは離れていた。職場の理解のおかげで辞めずにいられた。子育ての経験を仕事に生かせるように頑張りたい」と話している。

中抜けも短時間もOK…細かいシフトで「働きやすく」

「働きたい」を支える<上>職場の制度充実「やめさせない」

利用者と談笑する近藤さん(左)(岐阜市で)

 「授業参観で中抜けしたり、帰って晩ご飯を作った後で仕事に戻ったり。そうした働き方ができることで助かった」。岐阜市の「ふじさわデイサービス」で働く近藤真里さん(51)は、長女が小学校の低学年だった頃の生活を振り返る。

 約18年前に夫を事故で亡くし、ひとり親に。2009年にパートとして働き始めた。3年後に正社員になったが、両親も仕事をしていて頼ることができず、「職場の制度と理解がなければ、働き続けられなかった」という。

 施設を運営するYKAはスタッフが働く時間を柔軟に決められる仕組みを取り入れている。会社の案内には「1日1時間からでも採用」とあり、実際、朝に1時間半だけ働くスタッフもいる。

 いったん帰宅し、また職場に戻るという勤務スタイルも認めている。正社員でも、途中で仕事を抜けた分を、別の日の就労時間で調整できる。

 そうした働き方を可能にしたのが、短時間の就労を希望する高齢スタッフの存在だ。

 「子どもが発熱したので休みたい」。そんな連絡があると、現場の主任スタッフから高齢スタッフに「きょう、ちょっと来てもらえません?」と声を掛けたり、短時間勤務の人に延長してもらったりして調整する。子育ての先輩として快く協力してくれるスタッフが多いという。

 「短時間就労の希望者のために細かく勤務シフトを組むようにしたら、結果的に、子育て中の人など全員が働きやすい形になった」。同社の統括マネジャー、河合晃司さん(35)は説明する。

 最初は、近藤さんらのケースに個別に対応していたが、約8年前から、現在のような「柔軟な勤務体系」が定着。同社の施設で働いているひとり親の従業員は、全体の1割を占めている。近藤さんは14年から施設の管理者として、「遠慮せず中抜けしてね」と若いスタッフに声をかける立場になった。

 河合さんは「子育て中で時間に制約があるという人も、仕事を続けてもらえれば、将来、会社の核になり得る」と力を込める。

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