ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
同伴入居第1号の飼い犬「アミちゃん」…虹の橋に旅立った数か月後、看取った飼い主も安らかに逝った
ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」。愛犬との同伴入居第1号として、田中久夫さん(仮名、90歳代男性)とダルメシアンのアミちゃんが入居したのは、2012年の秋のことでした。
さて、前回のお話の続きです。
アミちゃんを置いていけない、ということを理由に老人ホーム入居を拒んでいた田中さんでしたが、「さくらの里山科」にアミちゃんと一緒に入れると言われても、最初は入居を拒み続けていました。住み慣れた家から離れたくない、という思いは認知症でも変わらなかったのです。
「入居してもいい」と気持ちが変わったのは寒さのためでした。秋になり、だんだん寒くなってきたところで、「ホームに行けば暖かいから」と勧められると、とうとう首を縦に振ったのです。
認知症のために暖房が使えず、食事もきちんと取れていなかった田中さんの生活は、「さくらの里山科」に入居して大幅に改善されました。暖かい部屋で、栄養にも配慮された食事を取れます。それはアミちゃんも同じでした。すぐにホームでの生活を満喫するようになりました。大勢の職員と入居者にかわいがられ、いつも楽しそうでした。同じユニット(区画)で暮らす先住犬で、保護犬出身のプーニャンとは大親友になりました。ホームのドッグランで走り回る2匹の姿を見て、入居者は歓声を上げたものです。
しかし、ただ一人喜んでいなかったのが田中さんです。アミちゃんが他の人や犬と一緒に過ごすのを望まなかったのです。田中さんのアミちゃんに対する愛情は揺らいでいませんでしたが、さらに認知症の症状である、アミちゃんへ固執する気持ちが交ざってしまったのだと思います。
田中さんの認知症は重度の状態でした。ホームに入居する以前、認知症のせいでいろいろなことが理解できないために、餓死や凍死するおそれがあると、市の福祉課職員が心配したほどです。ホームに入ったことで、餓死や凍死の心配はなくなりましたが、認知症による問題行動は多々起きていました。
田中さんの認知症状の最大の特徴は、感情の抑制ができず、すぐに激高してしまうことです。一日に何回も、何十回も激怒してどなっていました。
ホームの各居室には、職員を呼ぶためのナースコールのボタンがあります。田中さんは 些細 な理由で、すぐにボタンを押すようになりました。職員が駆けつけるのがちょっとでも遅れると、どなりつけるのです。職員は田中さんにマンツーマンで付き添うことなどできません。他の入居者の対応をしていれば、すぐには駆け付けられません。そのため、田中さんの部屋ではいつも怒号が響いていました。
そして田中さんが最も怒ってしまうのが、アミちゃんに他の人が近づく時です。職員がアミちゃんにちょっとでも近づこうものなら、部屋中に響き渡るぐらいにどなります。アミちゃんにご飯をあげる時ですら、「俺のアミに近づくなー!」と怒声を上げるので、当初は職員も困ってしまいました。もっともこの点は、アミちゃんの方が巧みに田中さんの目を盗んで、ご飯をもらいにきてくれるようになったので解決しましたが。
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