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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

 かわいがってきた犬や猫と最期まで一緒に暮らしたい――。そんな願いをかなえてくれる全国的にも珍しい特別養護老人ホームが、神奈川県横須賀市の「さくらの里 山科」。そこで起きた人とペットの心温まるエピソードを、施設長の若山三千彦さんがつづります。

医療・健康・介護のコラム

最初に同伴入居した犬「アミちゃん」…認知症になっても、何よりも大切だった

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人情商店街の善意が幸い…もろ手を挙げて歓迎され入居

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ダルメシアンのアミちゃん

 繰り返しになりますが、アミちゃんは大型犬です。食べる量はもちろん多いです。それをわかっているご近所の人たちは、食べ物を多めに差し入れてくれていたそうです。ドッグフードをくれることもあったそうです。田中さんが暮らしていたのが、昔ながらの商店街の一角だったことが幸いしました。まだまだご近所付き合いの人情が残っていた地域だったのです。

 田中さんが「アミちゃんと離れない」と主張するので困り果てていた市の職員は、ペットと入れる特別養護老人ホームがオープンすると知ると、早速、田中さんに、アミちゃんとの同伴入居を提案しました。

 このことは、私たちにとっても幸運でした、実は、ペットと暮らせる特別養護老人ホームを計画するのにあたって、最大の障壁は市の許可が得られるか、ということだったのです。

 特別養護老人ホームは行政の監督下にあります。行政からの許可がないことはできません。私たちの地元・神奈川県以外での出来事ですが、看板犬としてホームのロビーで犬を飼っていた特別養護老人ホームが、行政から犬を飼ってはならないと言われたという事例もありました。ロビーで飼っている看板犬すら許可が下りないのですから、入居者の居住スペースで、犬、猫が一緒に暮らすことの許可が得られるか、大変心配でした。

 ところが、許可が得られないどころか、田中さんとアミちゃんを一緒に入居させてほしいと、もろ手を挙げて歓迎されたのです。これは、うれしい誤算でした。

 「さくらの里山科」は2012年4月にオープンしました。それと同時に田中さんとアミちゃんが入居しました……とはなりませんでした。アミちゃんと一緒に老人ホームに入居できると聞いて、最初は喜んだ田中さんでしたが、やはり住み慣れた家から離れたくないと、入居を拒否し続けていました。これは人の気持ちとして当然のことです。認知症で理解力や判断力、記憶力は低下しても、人の気持ちは失われませんから。

 市の職員が粘り強く説得を続け、田中さんとアミちゃんが、ついに「さくらの里山科」に入居したのは、2012年の秋のことでした。だんだん寒くなってきたので、田中さんはホームに行けば暖かいと聞いて、入居を決めたのです。

 その時、「さくらの里山科」は開設から半年以上が過ぎていましたが、田中さんとアミちゃんが、初めての愛犬との同伴入居でした。ホームの飼い犬である保護犬の文福、大喜、モエ、被災犬のむっちゃんが入居者と一緒に暮らしていましたし、愛猫との同伴入居は4月にすぐあったのですが、愛犬との同伴入居はまだなかったのです。

 「さくらの里山科」で2年間幸せに暮らした後、最初はアミちゃんが、その後を追うように田中さんが相次いで亡くなるのですが、“2人”の別れのシーンは私たちに深い感動を与えてくれることになります。それはまた次回お話しします。

 (若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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