ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
最初に同伴入居した犬「アミちゃん」…認知症になっても、何よりも大切だった
ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」に、飼い主の高齢者と最初に同伴入居した犬は、ダルメシアンのアミちゃんでした。ダルメシアンは白地に黒の斑点模様が特徴の大型犬で、ディズニー映画「101匹わんちゃん」に登場する犬としても有名です。
アミちゃんと一緒に入居した飼い主の田中久夫さん(仮名、90歳代男性)は、長年、アミちゃんと“2人暮らし”をしていました。しかし、田中さんは認知症になり、生活能力が失われていきます。家事や買い物も難しくなり、近所の人が食べ物を差し入れてくれることで、かろうじて命をつないでいるような状態になってしまいました。
田中さんが住む市の福祉課職員は、このままでは田中さんが餓死や凍死してしまうことを本気で心配していました。餓死と聞くと意外に感じる人が多いでしょうが、認知症の独居高齢者が餓死をすることは決して珍しいことではないのです。とは言っても、経済的理由によるものではありません。お金があっても、食べ物を買ったり、管理したりすることができないためです。中には認知症のために、食べるということが理解できなくなるケースもあります。
凍死は、暖房器具を扱うことができなくなるためです。認知症の高齢者が火を扱うことは危ないので、家族や周囲の人がストーブ類を撤去するのはよくあることです。高齢者を守るためには仕方がないのです。ストーブの類がなくなると、エアコンだけが頼りなのですが、認知症のせいでエアコンの扱いができない場合があります。他の人がタイマーを設定しても、リモコンをいじって、うまく作動しなくしてしまうのです。その結果、暖房のない冷え切った部屋で凍死してしまう、ということが起きます。
おそらく、これからは、同様の理由で、熱中症で亡くなる認知症高齢者も増えると思います。
市の職員は、このような事情で、田中さんの餓死や凍死を心配して、特別養護老人ホームへの入居を勧めていましたが、田中さんは拒否していました。
その理由はもちろん、アミちゃんと離れたくない、ということです。
アミちゃんを置いてはどこにもいかないと、老人ホーム入居を頑として拒んでいたのです。
認知症になって、いろいろなことがわからなくなっても、アミちゃんへの強い思いだけは揺るぎませんでした。食事の時、田中さんは、差し入れてもらったお総菜やお弁当を、まずアミちゃんに食べさせます。そして残った物を自分が食べていたほどです。何よりもアミちゃんが大切だったのです。
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