山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
浅い川でも子どもは溺れる…足を滑らせ尻もちをつくと、流される力は最大で5倍近くに
川で流される状況を再現してみると
川で溺れたというニュースで報道された川の映像を見ると、川幅はそれほど広くはなく、流れはゆっくりで、あまり深そうには見えません。そのようなところで溺れが発生しているのは、子どもも大人も「浅いから大丈夫だろう」と思ってしまうためではないかとわれわれのグループは考え、川の浅いところの危険性について実験してみることにしました。
2017年、流速を変えることができる特殊な流水プールで、6歳児を模したダミー人形を用いて、水面下にある身体の長さと流速を変化させた場合に、流水によって身体が受ける力(流される力)を計測してみました( 図1 )。
水面下にある身体の長さは水深に相当すると考え、水面下の身体の長さを10センチ(足先が水中)から60センチ(腰まで水中)のあいだで変化させて計測しました。また、流速は、0.5~2.2メートル/秒(s)のあいだで変化させました。流される力は力センサーを用いて計測しました。
その結果をグラフに示しました。
例えば、流速が2.2メートル/秒の時、水深30センチでは流される力は4.1kgf(重量キログラム)であるのに対し、水深60センチでは14.3kgfに増加しました。体が水中にある割合が大きいほど流される力が大きくなることがわかりました。( 図2 )
また、浅瀬を想定し、水深16センチの場合、立位から座位の状態に変わると、流される力は2.1~4.9倍にも大きくなることがわかりました( 図3 )。浅瀬で滑って転倒した時は、短時間に立位から座位に変化し、浅瀬であっても流される危険性が高くなります。水深が浅い場合、立っているときにはあまり水の力は感じません。ところが尻もちをつくと、想像する以上に大きな水の力が発生し、流されてしまう恐れがあるのです。
この実験で計測条件とした0.5~2.2メートル/秒の流速は、数メートル程度の川幅が狭い川でも、雨天に限らず、ごく一般的にみられます。
「川には安全な場所はない」ライフジャケット着用を
実験結果をまとめると、〈1〉川の少し深い場所に移動すると大きな力が身体にかかる〈2〉同じ深さでも、流れが少し速くなると大きな力が身体にかかる〈3〉同じ深さ・流速でも、尻もちをつくと、急激に大きな力が身体にかかる――ことがわかりました。
「川には安全な場所はない」「ひざ下までの深さで遊ぶ」と言われていますが、今回紹介した実験でそれを証明することができました。川で遊ぶときは、浅瀬であっても、水難事故の予防対策としてライフジャケットを着用することが不可欠なのです。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)
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