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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

 かわいがってきた犬や猫と最期まで一緒に暮らしたい――。そんな願いをかなえてくれる全国的にも珍しい特別養護老人ホームが、神奈川県横須賀市の「さくらの里 山科」。そこで起きた人とペットの心温まるエピソードを、施設長の若山三千彦さんがつづります。

医療・健康・介護のコラム

文福の最もすばらしい点は「看取り活動」ではなく「癒やし活動」…意思をもって行っているように思えるのです

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文福の最もすばらしい点は「看取り活動」ではなく「癒やし活動」…意思をもって行っているように思えるのです

テーブルの下からひょっこり!入居者を癒やす文福

 近年、特別養護老人ホームでは、入居者の重度化が進んでいます。ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」も例外ではありません。重度の状態の入居者が多くなると、認知症の方も増えます。「さくらの里山科」では、入居者の7割以上が、程度の違いこそあれ、認知症の診断を受けています。

 認知症には様々な症状があります。いろいろなことが理解できないために豊かな感情が失われ、能面のように無表情になってしまう場合もあります。逆に感情の抑制が利かなくなり、激高しやすくなる場合もあります。いろいろなことが理解できないので不安になり、そのせいで大声を上げたり、激しく動き回ったり、あちらこちらの扉を開け閉めしたりというような行動を起こすことも、認知症の典型的な症状なのです。

 認知症の改善に、ペットたちは大きな役割を果たしています。無表情だった入居者が、犬や猫と接して、笑顔を取り戻すことはたびたび見られました。激高してどなっている入居者の方が、犬や猫に触れたとたん、穏やかになるということも、頻繁に起きています。

 ただし、ペットによる認知症の改善が見られるのは、犬好き、猫好きの方に限定されます。誰にでも効果があるわけではありません。認知症は治療法がまだ確立していないだけに、様々な民間療法(非薬物療法)があります。音楽を使った音楽療法、懐かしい写真などとともに思い出を語り合う回想法、香りを用いるアロマセラピー、絵画などを使うアートセラピーなど、手法も様々です。それぞれが、その療法に適した人には一定の効果があるのだと思います。「さくらの里山科」でも、音楽が大好きな入居者の方の認知症が、音楽療法で劇的に改善されたこともありました。

 ペットによる認知症の改善効果も、そのような様々な療法と同じです。ペットが好きな人には高い効果がありますが、ペットが嫌いな人には全く効果がないと思われます。

なお、「さくらの里山科」が目指していることは、ペットと暮らしたい高齢者がペットと暮らせるようにすること、それだけです。ペットによる治療、すなわちペットセラピーは目的としていません。目的としていないのに、結果としてペットセラピーと同様の効果が上がっているだけなのです。

 「さくらの里山科」で暮らしている保護犬出身の「 文福(ぶんぷく) 」については、これまで、入居者の方の最期に寄り添って 看取(みと) る、「看取り活動」ばかりをご紹介してきました。しかし、実は私は、文福の最もすばらしい点は、看取り活動ではなく、癒やし活動だと思っています。文福はこれまで、大勢の認知症高齢者を、いえ認知症でない高齢者も、癒やしてきたのです。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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