わたしのビタミン
医療・健康・介護のコラム
面接を「できることのアピールの場」に変えたい…うつ病やてんかんのある人などを企業に紹介
障害者と企業をつなぐ就労支援会社の社長…増本裕司さん(49)
障害のある人を企業に紹介して、就職につなげる会社を経営しています。障害の特性はもちろん、職場で配慮してほしいことやコミュニケーションの注意点を企業側に丁寧に伝えるのが特長です。事前に障害を理解してもらうことで、面接を「できないことの説明の場」ではなく、「できることのアピールの場」に変えるのがねらいです。
昨年10月に人材紹介を始め、うつ病やてんかんのある人など21人を就職につなげました。「長く働くことで恩返ししたい」。うつ病の男性は、そう力強く話してくれました。
起業したのは、自身が身体障害者になり、就職の壁を感じたのがきっかけです。
通信会社の社員だった2009年9月、職場で倒れました。脳出血でした。意識不明のまま運ばれた病院で、2週間後に目を覚ましましたが、起き上がることも言葉を発することもできません。「人生、終わった」と思い、一晩中泣きました。
右半身のまひで、身体障害者等級2級と認定されました。高次脳機能障害もあり、これまで通りには働けず、退職せざるをえませんでした。
リハビリに専念し、倒れてから約2年後、つえをついて歩けるまでに回復。障害年金だけではアパートの家賃などの生活費を賄うのが難しいため、再び働くことを決意しました。
障害者を募集していた60社に応募し、30社の面接を受けましたが、聞かれたのは、「通えますか」と通勤のことばかり。過去の仕事の実績や培ったスキルなど、アピールしたいことは尋ねてくれません。「電車通勤は難しい」と説明したため、不採用にされた会社もありました。ようやくアルバイトで採用されたコンサルタント会社では、上司に「いるだけでいい」と言われ、仕事が与えられず、悔しい思いもしました。
「障害者雇用」を掲げている企業である以上、障害を理解していると思っていたのに、実際には厚い壁がありました。この壁を打破しないと、障害者雇用は進まないと感じました。
そこで、起業後の19年に「障害者翻訳」のサービスを開発しました。障害の程度や症状をインターネット上で入力すると、配慮事項などを企業側に自動的に伝えられるシステムです。例えば、視覚障害の場合、「相手の名前を呼んでから自分の名前を言い、用件を話す」「机やトイレにつえホルダーの設置が望ましい」と例示されます。
システムを企業の採用ホームページに導入してもらえるように、医療系の大学と検証を進めています。多くの障害者が就労を通じて社会とかかわり、スキルや能力を発揮して自立できるように、支援していきたいです。(聞き手・野口博文)
ますもと・ゆうし 1973年、長崎市生まれ。2015年に就労支援会社「アクティベートラボ」(東京都)を起業。パソコン画面のイラストは、体の不自由な部位を示せるように開発した「ブイくん」。
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