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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

 かわいがってきた犬や猫と最期まで一緒に暮らしたい――。そんな願いをかなえてくれる全国的にも珍しい特別養護老人ホームが、神奈川県横須賀市の「さくらの里 山科」。そこで起きた人とペットの心温まるエピソードを、施設長の若山三千彦さんがつづります。

医療・健康・介護のコラム

猫と一緒に暮らすことの幸せをしみじみ実感…ペットと一緒にごく普通に老人ホームに入る、本来そうでなくては

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猫と一緒に暮らすことの幸せをしみじみ実感…ペットと一緒にごく普通に老人ホームに入る、本来そうでなくては

立花さんとミーちゃんは自由で気ままな生活を満喫

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」には、開設以来10年間で、18人の高齢者が19匹のペットと同伴入居しました。愛猫を連れて来た入居者が7人、愛犬を連れて来た入居者が11人です。ペットの数の方が1匹多いのは、愛猫2匹と一緒に入居した方がいるからです。なお、同伴入居した犬、猫たちに加え、ホームの飼い猫・飼い犬になった元保護猫が9匹、元保護犬が8匹います。

 これまで本コラムで紹介してきたのは、末期がんで余命3か月の方、難病を患っていた方、愛猫と一緒に死のうと思い詰めていた方など、重い人生のドラマを背負った方ばかりでした。そのような方々は、愛猫、愛犬と必死に生きてきて、一筋の光にすがるようにして「さくらの里山科」にたどり着いたのです。その姿を見て、私はペットと暮らせる特別養護老人ホームを作ってよかった、と心から思いました。

 でも、本当はそれではいけないのです。ペットと同伴入居する高齢者が重いドラマを背負った方ばかりというのは、今の社会の問題だと言えます。本来は、愛猫、愛犬と一緒に気軽に、ごく普通に老人ホームに入る、そうでなくてはいけないと思います。

 そこで今回は、愛猫と共に普通に入居した高齢者を紹介します。

 現在、12歳のかわいい“女の子”のミーちゃんと一緒に立花コトさん(仮名、女性、80歳代後半)が入居したのは、2020年の春。コロナ禍による最初の緊急事態宣言が発令される少し前のことでした。入居を申し込んだのは、ケアマネジャー(介護支援専門員)でした。

 ケアマネジャーは、高齢者の介護の相談支援を行う専門職です。基本的には、在宅介護に関する相談支援が職務ですが、特別養護老人ホームの入居申し込みをやってくれるケアマネジャーも少なくありません。

 ケアマネジャーが入居を申し込んできた理由は、立花さんが認知症のため、独居生活を継続するのが難しい、ということでした。立花さんは当時、認知症行動の一つである 徘徊(はいかい) をするようになっていました。徘徊の症状が進行すると、屋外をさまよった末、自宅に戻れなくなります。最近、多数の認知症高齢者が行方不明になっているというニュースに触れましたが、それは徘徊して自宅に戻れなくなった場合が多いのだと思います。

 幸い、立花さんは自宅に戻れなくなることはまだありませんでした。何時間も徘徊することが頻繁にありましたが、毎回自力で自宅に戻っていました。しかしケアマネジャーは、近い将来、自宅に戻れなくなる日が来るだろうと懸念し、離れて暮らす家族の了承を取り、特別養護老人ホームに入居を申し込むことにしたのです。

 ただし立花さんは愛猫のミーちゃんと“2人”暮らしでした。そして「ミーちゃんとは絶対に離れない」と言っていたのです。認知症でもミーちゃんを何よりも大切にする気持ちだけは揺るぎませんでした。そこでケアマネジャーは、「さくらの里山科」に申し込んだのです。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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1件 のコメント

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「ペットと同伴入居」ha

みるく

時々のぞいては癒やされながら楽しく読ませてもらっています。今回のコラム、深く同意します。「さくらの里山科」さんの「ペットと同伴入居」が、「当たり...

時々のぞいては癒やされながら楽しく読ませてもらっています。今回のコラム、深く同意します。「さくらの里山科」さんの「ペットと同伴入居」が、「当たり前」ではなく、とても珍しい先駆的な取り組みとして取り上げられる現状は残念です。社会問題としてとらえ、改革、改善していくことが必要ですね。このような発信、これからも期待しています。また、一個人としては何ができるのでしょうか。

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