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森本昌宏「痛みの医学事典」

 頭痛、腰痛、膝の痛み……日々悩まされている症状はありませんか? 放っておけば、自分がつらいだけでなく、周囲の人まで憂鬱にしてしまいます。それだけでなく、痛みの根っこには、深刻な病が潜んでいることも。正しい知識で症状と向き合えるよう、痛み治療の専門家、森本昌宏さんがアドバイスします。

医療・健康・介護のコラム

「目の奥の痛み」「脚のつっぱり」「筋肉の硬直」…意外な病気の正体は「多発性硬化症」

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 Uさん(38歳女性)は、27歳の時に「多発性硬化症」(multiple sclerosis、頭文字をとって「MS」と呼ぶ)を発症した。初発症状はかすみ目であり、視力低下、目の奥の痛みなどを伴うようになったが、これらの症状は約3週間で軽快した。しかし、その後、再発、寛解を繰り返して、徐々に脚のつっぱり、筋肉の硬直が強くなった。

原因不明、国の指定難病

「目の奥の痛み」「脚のつっぱり」「筋肉の硬直」…意外な病気の正体は?

 MSは、脳(大脳、小脳、脳幹)、さらに視神経、脊髄などの中枢神経系に病変が多発する病気である。原因はいまだ不明であり、国の指定難病になっている。

 一般的に神経細胞のまわりをぐるりと取り巻いている 髄鞘(ずいしょう) (ミエリン)が障害されるものを脱髄疾患と呼ぶが、MSはその代表である。髄鞘は、生理学的なコンデンサーの役目を担っていることから、障害によって通常の伝達機能が果せなくなり、痛みをはじめとするさまざまな症状を引き起こすのだ。

患者は欧米に多いが、わが国でも…

 中枢神経系全般において多発する“脳型”と、視神経と脊髄のみの“視神経脊髄型”(これを別の病気である「視神経脊髄炎」とする見方もあるが、ここでは同一として扱う)に分類される。

 欧米の白人に多く、有病率は10万人あたり50人前後(北ヨーロッパでは100人を超える地域もある)と高く、20~30歳代でみられる脱髄疾患のなかで最も多い。一方、わが国を含むアジアでの有病率は10万人あたり5人以下とみられてきたが、2017年の全国臨床疫学調査などでは、14~18人程度と推定され、女性に多い。なお、わが国は欧米と比べて、視神経脊髄型の比率が高い。これは民族的な遺伝的背景によるものと考えられている。また、緯度(日照時間)、ビタミンDの摂取量、喫煙などの影響も考えられている。

 10~55歳で発症するが、特に若年成人での発症が多い。視神経脊髄型での初発症状は、Uさんのように視力障害や複視(ものが二重に見える)、しびれなどの感覚異常、運動まひ(歩行障害が多い)である。そのほかでは、排尿障害をきたすこともある。

 私の経験では、(脊髄での脱髄による)胸部のしめつけ感(帯状の)を強く訴えられることが多い。なお、MS患者さんの2%が 三叉(さんさ) 神経痛を経験しているとするデータがある。これは、より若年者で起こる傾向がみられ、顔面の両側(典型的三叉神経痛では片側)に激しい痛みを生じる。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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