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[宇宙飛行士 野口聡一さん](下)宇宙体験がもたらす内面世界の変化とは? どう言語化? 立花隆さんの問いに挑む

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 3度の宇宙飛行を経験し、26年間勤めた国立研究開発法人JAXA(宇宙航空研究開発機構)を6月1日付で退職した野口聡一さん(57)。宇宙飛行士を目指すきっかけは、評論家でジャーナリストの立花隆さんが書いたノンフィクション「宇宙からの帰還」(中央公論新社)でした。2021年4月、野口さんの3回目の宇宙ステーション滞在中に80歳で亡くなった立花さんとの交流や、宇宙飛行を経験することで起きる内面の変化などをうかがいました。(聞き手・藤田勝、撮影・中山博敬)

宇宙飛行士を目指すきっかけは「宇宙からの帰還」

[宇宙飛行士 野口聡一さん](下)宇宙体験がもたらす内面世界の変化とは? どう言語化? 立花隆さんの問いに挑む

  ――立花隆さんが2021年4月30日に亡くなりました。ちょうど野口さんが宇宙ステーションに滞在中でしたね。

 訃報が流れたのは3回目のフライトから帰還した後でした。結果的に、私が宇宙にいる間にお亡くなりになっていたことが後でわかりました。

 そもそも高校生の時に読んだ立花先生の「宇宙からの帰還」が、宇宙を目指す非常に大きなきっかけで、宇宙にも本を持っていきました。立花先生とも何度もいろんな形で対談させていただいたりしていたので、そういう意味ではお亡くなりになったのは、すごく大きな損失だったと思います。

  ――もっと話をしたかったですか。

 そうですね。こういうのは何でも終わってから悔いが残るものだと思います。1回目と2回目は、それぞれの宇宙飛行の後にお会いして、やっぱりそのたびごとに、僕では見えてない世界があるんだなと思いました。「知の巨人」といわれる方ですから、非常に深い洞察力をもって宇宙体験を捉えていらっしゃいました。3回目の後、じゃあこれからどうするかっていうときに、お話ができればよかったです。

  ――立花さんの本を読まなかったら宇宙飛行士になっていなかった?

 そうだと思います。やはり「宇宙からの帰還」っていうのが、宇宙飛行士の深みをネガティブな部分も含めて描いていて、アニメのキャラクターではない、人間の職業としての宇宙飛行士、そういう捉え方をさせてくれた1冊でした。

[宇宙飛行士 野口聡一さん](下)宇宙体験がもたらす内面世界の変化とは? どう言語化? 立花隆さんの問いに挑む

野口さんの著書「宇宙飛行士野口聡一の全仕事術」(世界文化社)。献辞は「この本を、故・立花隆先生に捧ぐ」

  ――野口さんが昨年12月に出版した「宇宙飛行士野口聡一の全仕事術」(世界文化社)は冒頭、「故・立花隆先生に ささ ぐ」とあります。どんな思いが込められていますか。

 この本を作っていく中で、宇宙に行くことが人間の中にどういう変化を与えてくれるのかという、その根源的な問いを与えてくださったのが立花先生なので、先生に読んでいただけるといいなと、そういうニュアンスです。

宇宙体験による変化は明らか いかに言語化するか

  ――その立花さんからの過去のインタビューで、野口さん自身は宇宙に行ったことで「ドラスティックな宗教的な目覚め」はなかったと答えていますが、3回の宇宙飛行を通じ、自然観や生命観は大きく変わったのでしょうか。

 「宇宙に行って人生観が変わりましたか」ってよく聞かれますが、逆にすごいなと思うのは、人生観があるという前提なんだということです。「ちなみに、あなたの人生観は?」って聞きたくなります(笑)。その質問は結局、世の中、宇宙、地球、自分の周りのものをどう捉えているかっていう問いになります。外の世界をどういうフィルターで捉えていて、それが変わるのか、それを答えられる人はかなり少ないと思います。

 人間の内面世界は言語化するのが非常に難しい。一方で、私だけではなく、宇宙に行って帰ってきた人の言動や行動が以前と変わっているというのは、外から見ると割と明らかなわけです。後輩の飛行士を見ていても、宇宙に行く前後で違うよねっていうのは当然あるわけですが、それを明確に言語化できるかというとできない。それをいかに、どうやって明らかにしていこうかというのが、もう1回戻りますけど、立花先生の問いでもあります。変化しているのはわかるけど、それは何なんだ、と。

 内面世界を変革するほどのインパクトを与えた宇宙飛行、その変わったものを言葉にするとどうなのか、というのを立花先生はずっと探していたと思うし、私が大学で取り組んでいる当事者研究の目的もそこにあるわけです。言語化できない内面世界の変化を、いかに言語化するか、研究化するかというものです。

国境のない地球世界を即物的に理解できる

 これは本当に一生かけてやっていくしかないと思っています。部分的には言語化できていますよ。例えば、国境のない地球世界みたいな感覚を、概念ではなく、即物的に理解できるという能力です。そこは宇宙に行かないと見えない世界なので。

 そういった形で、宇宙に行ったことで変わった自分を今から 俯瞰(ふかん) して、その差を言葉にできるのか。あるいは外から、例えばJAXAの人たちが宇宙飛行士に「行く前と帰ってきた後で変わっているよね」って言うときに、じゃ、それは何なのか、第三者的に言語化できるか、そのあたりは大変難しいことだと思います。

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