文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

ウェルネスとーく

医療・健康・介護のコラム

[宇宙飛行士 野口聡一さん](下)宇宙体験がもたらす内面世界の変化とは? どう言語化? 立花隆さんの問いに挑む

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

死と隣り合わせの宇宙体験 恐怖ではなく諦念

[宇宙飛行士 野口聡一さん](下)宇宙体験がもたらす内面世界の変化とは? どう言語化? 立花隆さんの問いに挑む

 ――宇宙から帰還後、家族から「何か変わったね」などと言われたことは?

 いや、基本的に人間関係は連続性で捉えるから、普段は会ってない人の方が気づくと思います。しばらく会ってない人、例えば高校の同級生とか、そういう人たちの方が分かるんじゃないかなと思います。

 ただ退職して改めて思いましたけど、ニュースでは26年前の入社会見の映像と、退職したときの映像が並んで紹介されるので、「それは違っているよな」と思います(笑)。単純に26歳年をとったからなのか、宇宙体験なのか、分けられない部分は当然あると思います。宇宙体験以外に海外生活などいろいろ入ってくるのは確かですが、宇宙に行ったことで変わる部分っていうのは明確にあると思っています。

  ――最後に素朴な質問ですが、野口さんは宇宙を「100%死の世界」と表現されていますが、それに対する恐怖は毎回どう克服していたのでしょうか。

 恐怖じゃないんですよ。要は、そこに死があるという割り切りというか、諦念、諦めの念に近い。だから恐怖を毎回克服するわけではなく、死が当たり前にあるというか、生であることがむしろレアである世界にいた、それだけのことです。

 特に現代社会は死と隣り合わせの経験自体が少ない、基本的に死がない世界です。だからこそ死を恐れる。もちろん病気や加齢でやがて死ぬ。それはわかっているけれど、朝家を出て帰ってこない可能性があるとはなかなか思わないです。そういう可能性は当然あり、交通事故や突発的な犯罪もあるけれど、日常生活では意識してないから死が怖い。

 例えば、毎日、断崖絶壁を歩いて谷底まで水をくみに行くような生活をしていれば、途中でバランスを崩したら落ちて死んでしまいます。じゃあ毎日、死の恐怖におびえて水をくみに行くのかというと、そうではなく、そういう世界にいるという諦念を持つしかないのではと思います。

 だから宇宙というのも、極端に安全な地上の生活に対して、極端に死が多い、そういうものだと受け入れるだけです。ただ、無重力の世界、あるいは宇宙に行ったときのその死と隣り合わせの感覚というのは、実際に行ってみないとわからない。これも言語化ができない感覚ですね。

【ウェルネスとーくギャラリーはこちら】

宇宙飛行士 野口聡一さん

のぐち・そういち 1965年生まれ。東京大学大学院修了、博士(学術)。先端学際工学専攻。1991年、(株)IHI研究開発部勤務。1996年、宇宙飛行士候補に選抜される。2005年、スペースシャトル・ディスカバリー「STS-114」に搭乗し、日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)で船外活動を行う。09年、日本人として初めてソユーズ宇宙船TMA-17に船長補佐として搭乗する。14年、国際NGO法人「世界宇宙飛行士会議」会長にアジア人で初めて就任。19 年、サウジアラビア宇宙委員会の諮問委員に就任。20~21年、米国人以外で初めてSpaceXクルードラゴン宇宙船に搭乗し「世界で初めて3種類の違う帰還(滑走路、地面、海面)を達成した宇宙飛行士」でギネス世界記録に認定された。ISS滞在通算日数335日、船外活動4回は日本人最多。22年、「宇宙からのショパン生演奏」動画などでYouTube Creator Award受賞。合同会社「未来圏」代表、東京大学および日本大学特任教授。趣味は料理、キャンプ、飛行機操縦。

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

wellnnesstalk1-200

ウェルネスとーく

 あの人が、いつも生き生きしているのはなぜだろう。

 健康、子育て、加齢、介護、生きがい…人生の様々なテーマに向き合っているのは、著名人も同じ。メディアでおなじみの人たちが、元気の秘密について語ります。

ウェルネスとーくの一覧を見る

最新記事