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[宇宙飛行士 野口聡一さん](上)「燃え尽き症候群」乗り越え、人生の新たなサイクル回す

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多くの先輩宇宙飛行士たちと話し、引退後を考えた

[宇宙飛行士 野口聡一さん](上)フライト後の燃え尽き症候群はありがたいこと 不完全燃焼よりずっといい

  ――野口さんの場合、そうした悩みにどう対処してきましたか。

 2回目の約半年のフライト後、3回目までの準備期間で結構、引退した宇宙飛行士の人たちと話す機会がいろいろありました。世界宇宙飛行士会議という引退した人たちの親睦団体に、私は年齢的には非常に若かったですけど、たまたま日本の代表として参加しました。引退した後の動機づけ、あるいは新しい目標探しで苦労している人は多かったです。もちろん、落ち着いて今の生活をエンジョイしている方もいました。いずれにしても、そこで明確に移行があり、それは自分の人生なので、自分で決めなきゃいけないっていうところを見ることができました。

 未来 永劫(えいごう) 、現役の宇宙飛行士ではいられません。1回で引退するか、6回で引退するか、それは違いますけど、6回飛んだ人が全く悔いなくやめているとか、1回の人は未練タラタラだとか、そんなことは全然ないわけです。それぞれのライフステージに応じて、何らかの決断をする。続けるなら続けるなりのメリットデメリットがあり、やめるならやめるなりのメリットデメリットはある。それを受け入れるプロセスを見られたのは大きかったかなと思います。

 僕の場合、3回目を飛んだ後、周りの方の話を聞く中で、まだ宇宙飛行を待っている後輩の飛行士たちも結構いるので、これ以上待たせるのはかわいそうだなと率直に思いました。JAXAは国の税金を使って運営しており、いつまでもその税金で宇宙に行くのも違うと思ったので、自分としてやりたいことを新たに設定して、外に出るタイミングなのかなと思いました。

  ――そもそも宇宙に行ける回数は、どう決まるのでしょうか。

 もちろん各自の能力もあると思うし、巡り合わせなどの運もあると思います。あとは自分自身で、宇宙飛行で得るものを得たと思えたら、たぶん次のステップに行くのでしょうね。なので、まだまだ見切れてないのに辞めさせられたとなると、たぶん悔いが残ると思います。そういう方も世界の中では多いですけどね。

 外国の機関では結構、宇宙に行ける見込みがないことを、本人にはっきり言っちゃうようです。日本は紳士的なので、強引に辞めさせることはないですけど、やはり飛行の機会自体は限られているので、待ちの期間はどうしても長くなります。

人生の次のサイクルを回すには今がラストチャンス

  ――野口さんが希望すれば、4回目のフライトもありえた?

 あったと思いますが、逆にそうすることで生じるデメリットも明確に見えてきます。当然ながら自分の能力は落ちてきます。あとは引退してJAXAを卒業後に何かしようと思ったときに、OBやOGの人たちの話を聞くと、60歳を過ぎて社会に出て自分の会社を起こすのは大変という方が多かったです。私も結構な年ですけど、自分の会社を起こしたいとか、自分がやりたいことを一からオーガナイズしたいと思ったとき、ある意味、今がラストチャンスかなと思いました。

 JAXAに残れば、例えば10年後に宇宙に行く可能性は十分にありましたけど、60代後半になって次のサイクルを自分で回せるのかな、というのはありました。今は人生100年ですから何歳でも始められるとは思いますが、60歳で会社を始めるよりは40歳で始めた方がたぶんいいわけです。

  ――5月に合同会社 未来圏(みらいけん) を設立されました。どんな取り組みをしていきますか。

 一つは、これまでの宇宙経験や、宇宙を巡るいろんな国や企業の取り組みを世の中に出していく仕事が大事だと思います。もちろんJAXAは国としての宇宙政策を実現するために、そういうノウハウをすごく持っていますが、国の機関なのでやりにくい部分もあります。なので、一民間人の立場で宇宙体験での知見を広めていきたいです。

 後は、次世代を担う後輩飛行士であれ、子どもたちであれ、学生であれ、次の世代を開く人たちへの普及啓発を自分のスタイルでやりたいです。だから会社としての大きなテーマは、宇宙を担う次の世代たちにいかに刺激を与えていくかというところです。

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宇宙飛行士 野口聡一さん

のぐち・そういち 1965年生まれ。東京大学大学院修了、博士(学術)。先端学際工学専攻。1991年、(株)IHI研究開発部勤務。1996年、宇宙飛行士候補に選抜される。2005年、スペースシャトル・ディスカバリー「STS-114」に搭乗し、日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)で船外活動を行う。09年、日本人として初めてソユーズ宇宙船TMA-17に船長補佐として搭乗する。14年、国際NGO法人「世界宇宙飛行士会議」会長にアジア人で初めて就任。19 年、サウジアラビア宇宙委員会の諮問委員に就任。20~21年、米国人以外で初めてSpaceXクルードラゴン宇宙船に搭乗し「世界で初めて3種類の違う帰還(滑走路、地面、海面)を達成した宇宙飛行士」でギネス世界記録に認定された。ISS滞在通算日数335日、船外活動4回は日本人最多。22年、「宇宙からのショパン生演奏」動画などでYouTube Creator Award受賞。合同会社「未来圏」代表、東京大学および日本大学特任教授。趣味は料理、キャンプ、飛行機操縦。

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