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森永康平「患者と医師のコミュ力を育てる」

医療・健康・介護のコラム

便に鮮やかな赤色が混じり大腸がんと診断…患者に見えていたものとは

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血便の色が見えていなかった患者さん…人は自分と同じものを見ているとは限らない

 突然ですが皆様は焼き肉を食べるときに(おなかを壊さないように)ちゃんと焼けているか、どうやって判断されているでしょうか? 「え? 色でしょ? 赤みが残っていたらもう少し焼いて食べればいいんです」という声が聞こえてきそうです。では、もしその赤みが認識できなくなったらどうでしょう。少し動揺するのではないでしょうか。

 実は、色覚異常の方には、世界がそのように見えている場合があるのです。赤い色が識別しにくい場合、肉が生かどうか判別するだけでも大変ですが、それだけではありません。街中にある様々な標識は、赤や緑、黄色を使うことで私たちの目を引きますが、色を判別しにくいケースがあるのです。このため、みんなが見えやすいように改良が重ねられています。

 私が以前、お会いした患者さんは、事前の問診で「便の色は普通です」と話されていました。にもかかわらず、いざクリニックで便を確認すると大腸からの出血を示す鮮やかな赤色をしており、それがきっかけで最終的に大腸がんが判明しました。血便は一時的なものの場合もありますが、このように大腸がんなど重大な問題の兆候(症状)である可能性もあります。赤色が見えづらい方の場合、出血を察知するのが遅れてしまうリスクがあることを知り、忘れられない経験となりました。

重要な色覚検査

 私たちは生活していく上で、常に膨大な情報をインプットし、その重要性を判別しています。そこで大きな役割をもっているのが視覚です(一説によれば情報全体の8割以上が視覚由来ともいわれます)。視力は学校や会社の健康診断などで測定されますね。目の能力はそれだけではなく、色覚もその一つなのです。

 その重要な感覚に障害が生じる色覚異常は日本では女性の0・2%、男性の実に5%と、無視できない頻度で発生するとされています。

 色覚の検査は小学4年生で実施していたのですが(覚えのある読者も多いと思います)、2002年に文部科学省が学校保健法施行規則を改正し、健康診断の必須項目から削除しました。現在は希望者にのみ任意検査が行われています。

 このため、本人も特性に気づかないまま、学習や日常生活に困難を抱えているということが起こりえます。また、進学、就職する際に、パイロットや自衛官など一部の職業では制限があることも知っておきたいところです。

 前もって広く色覚検査を実施し、見えにくい色を授業で使用しないなど「色のバリアフリー化」を進めたり、進路指導などで特性に配慮した助言を行ったりするほうが、よほど理にかなっている気がします。

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森永 康平(もりなが・こうへい)

 2011年、筑波大学医学専門学群医学類卒。組合立諏訪中央病院を経て、16年、獨協医科大学総合診療科助教。22年からは、「MED AGREE CLINIC うつのみや」(宇都宮市)の院長を務める。「医学教育を観察と対話から」を合言葉に、アート作品を活用した教育事業「 ミルキク 」を起業。

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