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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

子どもの溺水事故が繰り返されるのはなぜ…プール活動中の映像を解析し、判明した事実とは

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 プールで 溺水できすい 事故が起こると、ニュースで大きく取り上げられます。今回は、幼稚園、保育園などのプールでの溺水と、その対策についてお話しします。保育、教育関係者の方はもちろん、小さなお子さんのいるお父さん、お母さんにも読んでいただきたいと思います。

両脚を紫色にして運ばれてきた少女の記憶…続発するプールの死亡事故 排水口の吸引力は救出難しく

イラスト:高橋まや

監視体制のわずかな空白

事例1 :2011年7月、神奈川県大和市の幼稚園のプールで、3歳男児が溺死した。 楕円だえん 形の屋内プールは直径約4.5メートル、水深は約20センチ。担任の幼稚園教諭がプール活動を終えるために遊具を整頓する短い時間に発生した。

 この溺死事故については、消費者庁の消費者安全調査委員会が検討を行い、2014年6月に 報告書 をまとめました。

 私は、この報告書を作成する事故調査担当専門委員として関わり、プールの構造、水深、プールに入っていた子どもの数、保育者の行動などの資料を見せてもらいましたが、子どもがなぜ溺死したのかわかりませんでした。

 報告書では、死亡した原因は、〈1〉プール活動中の園児の監視体制に空白が生じたために発見が遅れたこと〈2〉一刻を争うような緊急事態への備えが十分ではなく必要な救命処置を迅速に行えなかったこと――の二つとされました。

 監視体制に空白が生じた要因としては、〈1〉監視業務と指導業務を同時に1人の教諭が行っていたこと〈2〉スケジュールの遅れなどで追加業務が発生し、担任教諭が監視に向ける集中力が低下したこと――とされました。

 結論として、プール活動では、監視を行う者と指導を行う者を分けて配置することが必要であると強調され、「監視を行う際に見落としがちなリスクや注意すべきポイントについて、教職員への事前教育を十分に行うこと」と指摘されました。

 この報告書と同時に、消費者安全調査委員会から文部科学省、厚生労働省、及び内閣府に対して 意見書 が出されました。しかし、事故はなくなりません。

繰り返される事故

事例22017年8月、さいたま市の認可保育施設のプールで4歳女児が溺死した。このプールは手作りのプールで、事故当時、3歳児、4歳児、5歳児クラスの園児20人が一緒にプール内で遊んでいた。担当の保育士2人のうち、1人が園舎に戻り、監視役がいない間に事故が起きた。

 こうした事故を受けて、前回の意見書のフォローアップ調査が行われ、2018年4月24日、消費者安全調査委員会から 「教育・保育施設等におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」 が発表されました。しかし、その内容としては、2014年の報告書と同じことが書かれているだけで、具体的にどうしたらいいか明確ではありませんでした。唯一、前回の指摘の追加として、「監視に専念する人がいない場合は、プール活動を中止するように」という指示がありました。

問題は、監視の「中身」

 この「実態調査」では、「水の外で監視に専念する人員を配置することを徹底する必要がある」と指摘していますが、その「監視」がどのような監視であるのかを検証する必要がある、と私は考えました。ただ「監視して」と言うだけでは効果はないのです。有効な対策を打ち出すには、監視の実態を知ることが不可欠です。

 そこで次のように提案しました。「プール全体が撮影できるカメラを設置し、プール活動中はモニタリングをする。その映像を分析すれば、保育者の動き、子どもの行動、監視役の立っている位置などおおよそのことがわかる。日常のプール活動を記録して分析すれば、プールの広さに対して、何人の子どもなら監視が可能か、監視の実態や限界を知ることができ、保育業務の改善にもつなげることができる。事故が起こった時には、正確に分析することが可能になる」

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yamanaka-tatsuhiro_prof

山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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