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自死は「追い込まれた末の死」…「ぼく」が生きるためにできることとは

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「ぼく」どうすれば生きられた

大地さんの写真を見て、思い出を語る竹井京子さん

 2万1007人。昨年、国内で自ら命を絶った人の数です。

 2006年の自殺対策基本法施行後、国や自治体が相談体制を強化したこともあり、自死する人はコロナ禍までは減少傾向にありました。しかし、20年に11年ぶりに前年比増に転じ、昨年もコロナ禍前を上回る水準でした。

 経済的に困窮したり、いじめられたり、理由や原因があると考える人がいるかもしれません。しかし、大阪市のNPO法人「国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」には「なぜかわからないけど涙が止まらない」といった漠然と不安に駆られる人からの相談が多く寄せられています。

 著名人のニュースに「どうしてあの人が」と驚いた人も多いでしょう。誰より苦しんでいるのは、家族を失い、その理由もわからない遺族です。

 大阪府の竹井京子さん(73)は05年、一人息子の大地さん(当時19歳)を亡くしました。

 大地さんは中学生の頃、不登校になり、家に閉じこもりがちになりました。アルバイトの面接を受けた翌日、夜中になっても帰らず、数日後、自宅近くで亡くなった状態で見つかったそうです。

 残されたノートには「将来が不安」と書かれていました。でも、京子さんの目には、アルバイトをしたり、子どもと遊ぶボランティアをしたり、本人なりに前を向こうとしているように映っていました。

 「本人が弱かった」「家庭に問題があったのでは」。そんな偏見にも苦しみ、自分を責めることもありました。

 京子さんは「自殺」という言葉にも抵抗を持っています。「殺」という文字に罪を犯した響きがあるからです。

 「本人にもはっきりした理由がわからなかったのかもしれません。日常の中で、大切な人が突然いなくなるかもしれないことを知ってほしい」と訴えます。

 国は、自死は個人の自由意思によるものではなく、「追い込まれた末の死」としています。理由は一つではなく、偏見や決めつけは遺族と、本人の名誉を傷つけます。

 昨年11月に19歳の息子を自死で亡くした遺族の女性に、ある絵本を紹介されました。

 今年1月に出版された詩人の谷川俊太郎さんとイラストレーター合田里美さんの「ぼく」(岩崎書店)です。

 <ぼくはしんだ じぶんでしんだ ひとりでしんだ>

 そんな書き出しで始まる絵本は「ぼく」の目に映る世界の美しさや日常の尊さが描かれます。そして<なぜかここにいたくなくなって>死を選んでしまいます。女性は、その姿が息子と重なったそうです。

 「ぼく」をどうすれば救えたのか。絵本を読んだ後、考えました。答えは見つからず、今も考え続けています。

 みなさんも考えてみてください。近くにいるかもしれない「ぼく」が生きるために。そして、もしあなたが「ぼく」なら。うまく言葉にできないかもしれません。でも、どうか誰かに相談してください。

◆主な相談窓口

 日本いのちの電話連盟 0120・783・556(午後4時~9時)

 大阪自殺防止センター 06・6260・4343(金曜午後1時~日曜午後10時)

今回の担当は

 苅田円(かりた・まどか) 労働問題を担当し、コロナ禍で増えるフリーランスを取材している。過労死の遺族も取材してきた。

身近な疑問や困り事、記事への感想や意見を寄せて下さい

 〒530・8551(住所不要)読売新聞大阪本社社会部「言わせて」係

 iwasete@yomiuri.com

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