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参院選で年金・介護・子育て・貧困対策はどうなる?…暮らしの論点総まとめ【社会保障編】

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 2022年の参院選では、暮らしを守るセーフティーネット(安全網)の社会保障制度を巡る課題も、論戦のテーマになる見込みだ。新型コロナウイルスへの対応が長期化する中、年金、介護、子育てなど政策の論点を整理した。

【年金】物価が急騰しているのに、年金の減額はなぜ?

[Q] 食料品や日用品、ガソリン代などが値上がりする中、年金の受給額が減額されます。どうしてこんなことになるのでしょうか。

最新動向反映できない仕組み、0・4%マイナスに

[A] 老後の暮らしを支える公的年金は、自営業者らが加入する国民年金(基礎年金)、会社員などが加入する厚生年金とも、6月15日に支給される4、5月分から、前年度より0・4%減額される。マイナス幅は前年度(0・1%)よりも0・3ポイント拡大している。

 減額の背景には、物価や賃金の動向に応じて、受給額が毎年度見直される公的年金の仕組みがある。

 受給額は、前年の物価、過去3年間の賃金の変動率に基づいて決まる。今回の減額の場合、賃金が0・4%減、物価が0・2%減だったため、賃金の0・4%減に合わせた形だ。コロナ禍による経済への影響などが反映された一方、最近の物価上昇については考慮されていないため、物価高の中での減額となってしまった。

 現行の公的年金は、今起きているような急激な物価高に機動的に対応する仕組みにはなっていない。参院選では、物価高による打撃を緩和するため、一時的な給付金を含む様々な家計支援のあり方についての論戦も展開される見込みだ。

深刻な少子高齢化、現役世代への配慮も

 公的年金は、現役世代が納めた社会保険料などで、高齢者らへの給付を賄っている。「賦課方式」と呼ばれる。受給額の決定にあたって、物価だけでなく、賃金も考慮するのは、現役世代の支払い能力に応じた給付水準にするという意味合いがある。

参院選で年金・介護・子育て・貧困対策はどうなる?…暮らしの論点総まとめ【社会保障編】

 日本は少子化で、支え手の現役世代が先細りとなる一方、公的年金を受給する高齢者は増えている。このため現役世代の保険料負担増を抑えつつ、受給額を調整する仕組みを導入している。

 少子高齢化は深刻さを増しており、年金の給付水準の低下が懸念されている。年金の価値は現役世代の平均賃金の何%に相当するか(所得代替率)で説明される。基礎年金の満額1人分で見ると、現在18・2%だ。厚生労働省は2046年度には13・2%に低下すると試算している。

支え手増やし、「低年金」減らす

 政府は対策として、年金以外の収入を得る高齢者を増やすことや、公的年金の「支え手」を拡大する方針を打ち出している。

 70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とし、今年4月には年金を受け取りながら働く場合、年金がカットされにくい仕組みを導入した。受給開始年齢の上限を75歳まで繰り下げ、受給月額を最大84%増とすることができるようにした。できるだけ長く働くことを促す施策だ。

 また、今年10月からはパートやアルバイトなどの短時間労働者の厚生年金への加入要件が緩和される。現在は従業員が501人以上の事業所が対象だが、101人以上の事業所に広がる。

 保険料を支払う「支え手」を増やしつつ、基礎年金しか受け取れない「低年金」の人を減らす効果が期待されている。一方で、短時間労働者の手取り給与の減少や、企業の負担増という課題もある。

 年金制度は5年に1度の財政検証に合わせて見直され、次回は24年に議論される予定だ。現役世代の負担に配慮しつつ、年金受給者の生活を守る難しいかじ取りが求められている。

【介護】将来が不安です…岐路に立つ介護保険制度

[Q] 介護現場の人手不足や、介護保険料の上昇のニュースを見るたび、不安になります。将来、きちんとした介護を受けられるのでしょうか。

介護費用が膨張、介護保険料も倍に

[A] 2000年度にスタートした介護保険制度は、財政面と、現場を支える担い手確保の両面で、大きな岐路に立っている。

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入所者に話しかける介護施設の職員(5月24日、津市で)

 介護が必要と判断された人は制度創設時には約218万人だったが、現在は約689万人に増加した。介護にかかる費用も22年度は約13・3兆円に上る見通しで、00年度の約3・7倍の規模に膨れあがっている。

 この費用を賄うため、40歳以上が支払う介護保険料も上昇している。65歳以上の高齢者の介護保険料で比較すると、21年4月から全国平均は月6014円。制度がスタートした00年度の2倍超の水準に達している状況だ。

現場は慢性的な人手不足、重い責任低い給料

 一方で、介護の現場は慢性的な人手不足に悩まされている。厚生労働省の推計では、高齢者人口がほぼピークとなる40年度には、介護職員を19年度の約211万人から、さらに69万人増やす必要がある。

 担い手不足の原因として、責任の重さに比べて、給与水準が低いことが指摘されている。このため、政府は今年2月から介護職員の月額賃金を3%(9000円)程度引き上げる対応を取った。

 2~9月分の賃上げの財源は補助金だが、政府は10月以降も介護保険料と公費が財源の介護報酬を改定して、賃上げを継続する方針だ。将来的な介護保険料の上昇につながる可能性が高いが、処遇改善が進まなければ、担い手不足がさらに深刻になり、必要な介護を受けられなくなる事態を招きかねない。

「給付と負担」あり方は

 参院選後には、3年に1度の介護保険制度の見直しの議論が本格化する。様々な課題を抱える制度を将来的に維持していくためには、給付と負担のあり方の議論は避けて通れない情勢だ。

 介護サービスの利用者負担は原則1割で、一定以上の収入がある高齢者は2割や3割だ。2割負担の対象範囲の拡大など、利用者の負担増を伴う改革メニューも議論される見通しだ。

【子育て】児童手当や保育サービスは充実する?

[Q] コロナ禍の休校で、娘の世話のためにパートの仕事を減らさざるを得ませんでした。子育て負担の重さを実感します。

少子化傾向が加速、安心して生み育てる環境を

[A] 2021年の出生数は過去最少の約81万人(概数)だった。コロナ禍の将来不安などで、少子化傾向が一気に加速したと指摘されている。

 内閣府が20年度に実施した国際意識調査では、「子どもを生み育てやすい国」だと「思わない」とする回答の割合が日本は約6割で、フランスの3倍以上だった。子育てにかかる経済的な負担を複数回答で聞いたところ、日本では約6割が「学習塾など学校以外の教育費」を挙げていた。

 少子化に歯止めをかけるには、安心して生み育てられる環境が欠かせない。

 子育てに伴う経済的な負担を軽減するため、政府は幼児教育・保育の無償化や、高校の授業料の支援などを進めてきた。子育て支援をどう充実させるかは、参院選でも焦点となるとみられる。

 今国会では、子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」の設置法案が成立する見通しだ。少子化対策や子どもの貧困、虐待防止など、幅広い分野を一括して担当し、来年4月の発足を目指す。妊娠から青年期まで、支援が年齢で途切れないようにするのも狙いだ。

安定した財源の確保が課題

 日本の児童手当や保育サービスなどへの支出(約9・7兆円)が、国内総生産(GDP)に占める割合は1・73%(19年度)で、英国の半分ほどだ。岸田首相は「子ども関連予算を将来的に倍増する」としているが、子どもたちにツケをまわす借金に頼らず、安定した財源を確保できるかどうかは課題だ。

【貧困】コロナ禍で生活に余裕ない…賃金底上げ、格差是正は?

[Q] コロナ禍で仕事や住まいを失った人の話を聞くと、心が痛みます。自分も決して生活に余裕があるわけではないので、不安になります。

「実質失業」は130万人超

[A] コロナ禍による経済の減速に伴う雇い止めなどで、悪影響が集中したのが非正規雇用だ。

 パートやアルバイトなどの非正規で働く人は現在、約2073万人(1~3月平均)。コロナ禍が起きる前の2019年の約2162万人(同)から急減した後、あまり回復していない。解雇に至らなくても、勤務日数を大幅に減らされるなどして、実質的に失業の状態にある人は130万人以上にのぼるという推計もある。

 仕事を失うと家賃が払えなくなる人が増える。住む場所を失うと、仕事探しも難しくなり、生活が行き詰まってしまう。実際、求職活動中の離職者らに家賃を補助する国の住居確保給付金の総額は20年度で306億円。非正規で働くひとり親家庭などの利用で、前年度の50倍以上に増えており、こうした雇用と住まいの危機が深刻であることがうかがえる。

コロナで浮き彫りになった危うい安全網

 コロナ禍は、もともと拡大していた社会の様々な格差を浮き彫りにしたとも言える。

 例えば、社会に出るタイミングがバブル崩壊後の不況期に重なった30歳代後半~40歳代の就職氷河期世代だ。雇用や収入が不安定なまま年齢を重ねた人が少なくない。

 このまま氷河期世代が高齢期を迎えると、貯金など老後の備えがないまま、低年金に陥る人の増加が懸念されている。このため、国は氷河期世代の就労支援強化策を打ち出したが、直後にコロナ禍に見舞われ、出ばなをくじかれた形だ。

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ひとり親世帯を対象に、弁当や野菜、米などを配るNPO法人「みなと子ども食堂」のスタッフたち(東京都港区で)

 シングルマザーなど、ひとり親世帯の苦境も深刻だ。支援団体の調査では、収入減を「食事の回数を減らす」といった対応でしのぐ家庭が少なくないことも明らかになっている。

 こうした問題への対応では、国や自治体と、民間の支援団体などとの連携の重要性が増している。

 生活が苦しい家庭の子どもたちに食事を提供する「子ども食堂」や、ひとり親らに対する就労支援など、現場をよく知る民間の支援団体が続けている取り組みを、前例にとらわれず、行政が柔軟に後押しする姿勢が重要となる。

 一生懸命働いているのに、貧困状態から抜け出せない――。こうした状況を改善するには、最低賃金を、雇用の維持や企業負担を考慮しつつ、可能な限り引き上げていくことが重要だ。格差是正の観点から、正規雇用と非正規雇用の労働者で、不合理な待遇の格差を禁止する同一労働同一賃金の着実な実施が求められる。

【孤独・孤立】悩みを相談できない…20~30代で深刻

[Q] コロナ禍で外出自粛が求められ、孤独を感じることが多くなりました。悩みを相談できる人もおらず、将来に希望が持てません。

求められる「寄り添う支援」

[A] 政府が4月に発表した孤独・孤立に関する初の全国調査によると、「常に」や「たまに」など、何らかの形で「孤独感がある」と回答したのは、ほぼ3人に1人にのぼった。孤独は高齢者の問題と思われがちだが、特に20~30歳代で孤独感を抱く割合が高い傾向があった。

 コロナ禍では、自殺の動機に「孤独感」があったとみられる人が増えた。女性の自殺者数は2020、21年と2年連続で増加している。もともと、地域や家族のつながりが希薄化していた中、学校や職場を含めて人との接触が制限されるコロナ禍で、問題が深刻化した面がある。

 孤独や孤立を感じる当事者や家族が、助けを求める声を上げやすい雰囲気作りや、当事者に寄り添う支援制度が求められている。

 政府は2月、国や自治体、全国で相談事業や居場所作りなどを担う非営利組織(NPO)などで構成する「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」を設立した。課題や情報を共有し、連携することで、円滑に解決に取り組めるようにするねらいがある。

 既存の支援制度は、申請や相談がきっかけになるものが多い。困っている人に積極的に手をさしのべる「アウトリーチ型」を増やすことが重要だ。

 ◎この連載は野島正徳、板垣茂良、小野健太郎、村上藍が担当しました。

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