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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

認知症が進んでも愛犬「先輩サリーちゃん」のことは忘れなかった飼い主…ペットの世話は介護に不必要なことなのか

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「先輩サリーちゃん」と飼い主の物語…認知症がどれだけ進んでも忘れることはなく、何より大切にしていた愛犬

飯田さんの膝の上でくつろぐ「先輩サリーちゃん」

  5月2日のコラム で、後輩サリーちゃんと呼ばれるワンちゃんのエピソードを書きました。後輩がいるということは……もちろん先輩がいます。そこで今回は、「先輩サリーちゃん」のお話を紹介します。

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」に、先輩であるサリーちゃんが飼い主の飯田正子さん(仮名)と同伴入居したのは、令和元年(2019年)9月のことでした。かわいいシーズー犬のサリーちゃんは8歳。飯田さんは80歳代後半。ご家族が入居を申し込んでから3か月というスピード入居でした。

 それは、犬と暮らせるユニット(区画)の部屋、犬の定員、その両方に同時にたまたま空きができたという幸運に恵まれたこともあったのですが、一番の理由は飯田さんの心身の状態から緊急性が高いと判断したためです。

 一人暮らし、いえサリーちゃんとの“二人暮らし”の飯田さんは、認知症が進行してしまい、自力で生活するには限界に達していました。とはいえ、もしサリーちゃんがいなくて、飯田さんが本当に一人暮らしだったら、まだもう少し生活が続けられるという状況でした。認知症のせいでいろいろなことができなくなっていたのですが、様々な在宅介護サービスを利用することにより、辛うじて生活は成り立っていたのです。

 幸い、屋外をさまよって帰れなくなるという「 徘徊(はいかい) 」の症状はありませんでした。何かを盗まれたと周りの人間を疑う「物 () られ妄想」、自分はご飯を食べさせてもらえないなどと思い込むような「被害妄想」も見られませんでした。

 また、キッチンコンロやストーブなどの火気器具は、家族が全て撤去していたので火事を起こす心配もありませんでした。食事は高齢者用の弁当配達サービスや、デイサービスセンターで食べる昼食で賄っており、ホームヘルパーさんも助けてくれていました。トイレは自力で使うことができ、排せつ物をいじってしまう「 弄便(ろうべん) 」という認知症の症状もありませんでした。お風呂もデイサービスセンターで入れてもらっていました。

 認知症の症状は多様であり、いろいろなタイプの認知症の方がいるのですが、飯田さんは重度の認知症でも、行動面での大きな問題はなく、介護を受ければ生活が成り立つタイプだったのです。

 しかし問題となったのがサリーちゃんです。認知症がどれだけ進んでも、飯田さんは決してサリーちゃんを忘れることはなく、何よりも大切にしていました。毎日朝晩には、家族に買ってきてもらったドッグフードの缶詰を与えていました。でも、毎回、缶詰を何個も開けてしまうのです。蓋を開けたまま放置されて腐った缶詰が、至る所に置かれているような状況になってしまいました。サリーちゃんが必要以上に食べ過ぎたり、腐った物を食べたりしなかったのは救いでしたが……。

 当然、散歩に行くこともできなくなり、ペット用トイレには排せつ物があふれていました。それを飯田さんは適切に処理することができません。家中の至る所が、サリーちゃんの尿や便で汚れているようになってしまいました。このような不衛生な環境で暮らしていては、飯田さんが体を壊してしまうと心配した家族が、「さくらの里山科」への入居を申し込んだのです。そしてホームの相談員も、ご自宅を訪問すると即座に、緊急性が高いと判断しました。その結果、スピード入居となったのです。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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