鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
医療・健康・介護のコラム
26歳になっても小児外科に通い続ける女性 看護師たちは「自立してない」と…大人になる患者の物語に寄り添う
26歳女性。胆道閉鎖症のため、生後すぐに手術が行われた。その後も小児外科外来で定期治療を受けてきた。20歳くらいから、胆管炎を繰り返すようになり、体調を崩すことが多くなってきた。成人患者の胆管炎治療は、消化器内科のほうがより専門的に行えるため、患者の治療の主軸は消化器内科に移りつつあった。しかし患者は、体調を崩すたびに小児外科外来を受診しており、発熱して胆管炎の発症が疑われる場合も同じであった。長年、この患者にかかわってきた小児外科の医師は、「困っていれば手を差し伸べたい」と、患者の外来受診に丁寧に対応していた。
このような患者の受診行動に対して、今までの経過を知らない医師から「家族も小児外科の受診を望んでいる。これを許容する医療者側もよくない。消化器内科にかかるべき」との意見があった。外来の看護師からも、「彼女は自立してない。小児外科に依存的になっているよね」という声が聞かれるようになった。
さて、どうすべきか。
看護師たちに「優しくしないでおこう」という雰囲気が
小児領域で長年働いてきた看護師が語ってくれた事例です。当時、この看護師は小児外科外来を含む「子ども外来」で働いていました。子ども外来の看護師たちの多くは、彼女を「自立していない患者」とみなすようになっていて、「優しくしないでおこう。積極的にかかわらないようにしよう」という意識が態度にも表れるようになっていました。この看護師は「患者さんが悪者になってしまう。何とかしなければ」と思ったそうです。
では、一方の消化器内科側はどう考えているのか。看護師は、消化器内科外来の同僚に聞いてみました。そうすると、実は全く違う見方をしていることがわかりました。
消化器内科外来の看護師は、「彼女はとても礼儀正しい。ちゃんと一人で予約日に来るし、自分の病状についてよく理解していて、それを細かくドクターや私たちに話してくれる。自分の病気にしっかり向き合っていて、何の問題もない」と言うのです。
「自立を促さなくちゃ」「わかっているけれど…」
小児部門だけで話しても、「患者の体には消化器内科を受診したほうがよいのだから、そちらを勧めましょう」という答えしか見いだせないと思われました。そこで看護師は、患者さんにより良い形はないか考えるため、双方の部門のスタッフが集まって話し合う場をつくりました。
小児外科の若い医師は、「小児外科ではなく、消化器内科で診てもらうことが重要。26歳になるし、自立を促していかなくちゃいけない」と言った。同じ小児外科でも、長年、患者の経過を見てきた医師は、「どこかで線引きしなくちゃいけないのはわかっているけど……」と、小児外科受診を打ち切ることには踏み切れないようだった。
これらの見方に対し、消化器内科の医師からは、「本来であれば、消化器内科への移行がスタンダードだけど、小児外科を切るべきではない。治療はもちろん重要だけど、彼女にとって小児外科は安心できる場所なんじゃないか」という意見が出た。
この消化器内科医の言葉によって議論の空気が変わったと、看護師は感じたそうです。
話し合いの後、子ども外来の他の看護師は、「今まで、甘やかしちゃいけない、自立が大事だとしか言っていなかったけれど、何でそう考えていたのだろうか。看護師として、患者さんが20歳を超えて生活が変化する中で、もっと一緒に考えられることはあったのではないか」と話しました。また、「自立、自立とばかり言って、患者さんに『どうして小児外科を受診するのか』も聞いてなかった」という反省も聞かれました。
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