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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

「せっかく進学校に入ったのに」と涙ぐむ母…不登校の高1男子を変えた副担任とのお弁当

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 不登校の子どもたちは、「誰も自分の本当の気持ちをわかってくれない」と思い続けています。周りがみんな敵に見えることもあるでしょう。でも、そんな子どもたちが、一人の教師と出会うことによって変化し、成長していく姿を、思春期外来では見ることができます。

高校でも友だちを作れず

「せっかく進学校に入ったのに」と涙ぐむ母…不登校の高1男子を変えた副担任とのお弁当

 達也君(仮名)は、両親、弟との4人家族です。幼児期は折り紙が大好きで、いつも一人で折っていました。掃除機や換気扇の大きな音が苦手で、耳をふさぐことがありました。小学校入学後は、なかなか友だちができず、休み時間はいつも一人で本を読んでいました。融通がきかず、相手と折り合いをつけることが苦手でした。

 中学校時代もほとんど友だちができませんでした。自宅では「フォートナイト」というオンラインゲームに夢中でした。学校の成績は優秀だったので、高校は地元の進学校に入学しました。

 この高校では毎日のように大量の宿題が出ましたが、達也君は、それを期限までにやり終えることがほとんどできませんでした。計画的に宿題をこなすことができず、とうとう提出しなくなりました。そのため、成績は下がる一方でした。そして、高校でもなかなか友だちを作ることができません。高校1年の夏休み明けからは学校を休みだし、その年の10月、お母さんと一緒に思春期外来を受診しました。

母は「せっかく進学校に入学したのに…」

 診察室の達也君はとても緊張し、主治医からの質問にも「はい」「いいえ」としか答えてくれませんでした。自宅ではフォートナイトに没頭し、昼夜逆転の生活を送っています。

 同伴したお母さんは、

 「せっかく進学校に入学したのに、不登校になってしまい残念でしかたありません。このままでは人生の落ちこぼれになってしまいます。だから私は毎朝、達也を必死になって起こそうとしました。でも、達也はベッドから出てこようとはしません。夫は『好きなようにさせておけ』と言うだけです。私は、何とかして登校させようと思います」

 と、時折涙ぐみながら話をしてくれました。

 不登校ということで、主治医は、2週間に1度の割合で通院してもらうことにしました。達也君には多少、発達の偏りがあるかもしれないことを頭に置きながら面接をしていくことにしました。

 通院を始めて1か月がたちましたが、不登校は続いています。診察室で達也君は、

 「僕には味方が一人もいないんです。学校ではいつも一人っきりで、それがつらくて学校を休むようになりました。でも、家ではお母さんが、毎日のように『学校に行け』とうるさく言う。弟も登校できない僕をバカにしてくる。誰も僕のことをわかってくれない」

 と言って、涙を流しました。

登校を続けられるようになったきっかけ

 ところが、その1か月後から、達也君は登校を続けるようになりました。たまたま登校した日、副担任の先生から「昼休みに一緒にお弁当を食べよう」と誘われたのをきっかけに、生徒相談室でこの先生と過ごすようになったのです。お弁当を食べながら、達也君は、オンラインゲームの話を副担任の先生にしています。副担任の先生はゲームのことは全くわからず、話についていけませんでした。達也君は、ゲームの基本的なことから、一つ一つ先生に教えてあげました。

 副担任の先生とのお弁当が始まってから、達也君は学校を休むことがなくなりました。でも、教室では依然として孤立していました。

 副担任の先生は、達也君に対する自分の関わりがこのままでよいか不安となり、本人とお母さんの承諾を得て、主治医のところに相談に訪れました。主治医からは、

 「達也君は、先生という味方を初めて見つけることができました。先生も大変かもしれませんが、このまま一緒のお弁当を続けてください」

 と話しました。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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