産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」
医療・健康・介護のコラム
人事異動後に発生しやすい「適応障害」、休職や配置転換が必要な場合も

イラスト 赤田咲子
春は人事異動のシーズン。この時期は、「適応障害」を起こす方が増えます。昇進や転勤などの異動に伴う職場ストレスに対して、性格的な要因からうまく適応できず、気分が落ち込んでしまったり、職場への不適応から出社恐怖が起こったりすることもあります。自分では心がSOSを発していることに気付きにくい場合があるので、家族の役割も重要です。
本社課長に抜てきされ、新しい仕事にストレス
大手販売会社課長の上野太郎さん(42歳、仮名)は大学卒業後、順調にサラリーマン人生を歩んできました。誠実な人柄できちょう面、ただ、多少融通が利かないところがあります。営業実績が評価されて4月の異動で京都支店営業課長から本社営業部企画課長に抜てきされました。営業現場の管理とは違って、本社企画課では、役員会に上げる企画書の作成がプレッシャーになりました。「突っ込まれないように、完全、完璧に……」と思うと緊張してしまいます。企画書を作るには、事前に関係各課への根回しが必要ですが、社内調整が悩みの種です。柔軟なタイプではないので、利害調整が難航することもしばしばです。
妻も夫の変化に気付く
パート勤務の妻、幸代さん(38歳、仮名)も夫の変化に気付きました。異動から1か月たったころ、眠っているはずの夫がぶつぶつと寝言を言っていました。聞いてみると、「頑張らないとダメだ」「部長、間に合わせます」と言っています。「仕事が大変なんだ」と思いましたが、休日は小学3年生の子どもとキャッチボールをしているし、以前と変わらずいっしょに外食にも出かけます。様子を見ることにしました。
それから1か月後、帰宅がおそくなり、子どもと顔を合わせることも減って来ました。食事を勧めても「会社で食べた。おなかがすかない」と言うのみ。「あなた、無理をしないでね」と言葉をかけても、「わかっている。わかっている」と言って入浴もしないで寝てしまいます。休日は家でゴロゴロしていることも多いのですが、趣味のギター演奏はしていました。
7月初旬、太郎さんは資料を作成しようと休日出勤するのですが、気持ちばかりが焦ってしまって思うように進みません。食欲がなくなり、仕事が手につかず、本社ビルに近づくと急に 動悸 がし、足がすくむようになりました。
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