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山中龍宏「子どもを守る」

 子どもは成長するにつれ、事故に遭う危険も増します。誤飲や転倒、水難などを未然に防ぐには、過去の事例から学ぶことが効果的です。小さな命を守るために、大人は何をすればいいのか。子どもの事故防止の第一人者、小児科医の山中龍宏さんとともに考えましょう。

妊娠・育児・性の悩み

両脚を紫色にして運ばれてきた少女の記憶…続発するプールの死亡事故 排水口の吸引力は救出難しく

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「その時の責任者」は有罪となったが…

 事故から1週間後、3万127の公立小・中・高校と2824か所の公営プールを対象とした文科省の緊急調査の結果、2339か所のプールに不備があることが発表され、不備があるプールは使用を中止するよう通知が出されました。

 ふじみ野市のプールの排水口は、10年9月、日本技術士会の「子どもの安全研究グループ」によって現場検証が行われました。その結果、元の設計に問題があり、防護蓋のねじ穴の位置とそれを固定する棚板のねじ穴の位置にずれが生じ、ねじ留めがうまくできなくなり、ねじ山(らせん構造部分)の損傷が進んで外れるようになったと推察されました。すなわち、プールの開設当初から起こる可能性があった事故だと結論づけられました。

 この事例は裁判になり、教育委員会の担当課長と係長の有罪が確定しました。たまたま、その時の責任者だった人が有罪となったわけですが、このような対応だけでは次の事故の予防には結びつきません。

確実な予防策は排水口を設けないこと

 体の一部がプールの排水口全体を覆ってしまうと強力な吸引力が発生します。この吸いつきを解除することはほぼ不可能です。その時、頭部が水中にあると溺死してしまいます。事故を防ぐには、排水口の蓋の構造を変える必要があります。平板に穴を開けた形状の蓋ではなく、お (わん) 状の形にした蓋に穴を開けておけば、体が蓋の全面を覆うリスクは軽減されます。排水口を1か所ではなく何か所かに設置したり、体が蓋の穴のすべてをふさぐことがないよう排水口を広くしたりすれば、吸引力を分散することができます。

 確実な予防策としては、プールに排水口を設けず、給水した分はプールからあふれ出る構造にすることです。プールの構造上の安全確保は、プール管理者の責任ですが、利用する側も、今回お話ししたような危険について知っておいてほしいと思います。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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