山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
両脚を紫色にして運ばれてきた少女の記憶…続発するプールの死亡事故 排水口の吸引力は救出難しく
水に溺れることを「 溺水 」といいます。事故の中でも、溺水は大きな課題となっています。世界では少なくとも年間約23万6000人が死亡している溺水は 、Silent and Preventable Killer (静かに、そして予防可能なキラー)であるとされ、国際連合の第75回総会において、溺水予防に関する決議が採択されました。この決議によって、国連総会は加盟国に対し、溺水予防に向けて自発的に行動を起こし、国の窓口を設けるように奨励しています。そして、毎年7月25日を World Drowning Prevention Day(世界溺水防止デー)に制定しました。

イラスト:高橋まや
4月にも起きた痛ましい事故
人口動態統計をみると、2020年の溺水による死亡は、0歳(6人)、1~4歳(8人)、5~9歳(11人)、10~14歳(24人)、15~19歳(44人)でした。同年の事故死447人のうち、溺死は93人で21%を占めていました。0歳と1歳の6~7割は浴槽で溺れており、年齢が長ずると、川や湖、海での溺死が多くなっていました。
東京消防庁の救急搬送データを表に示しました。2020年度の0~4歳の救急搬送数をみると、転倒は2069人、転落は2067人ですので、それに比べると溺水の救急搬送は少ないのですが、溺水で搬送した例は重症度が高い例がほとんどです。ほぼ毎年、同じ搬送数であることがわかります。
0-4歳 | 5-9歳 | 10-14歳 | 15-19歳 | |
2015年 | 32 | 5 | 5 | 2 |
2016年 | 30 | 2 | 0 | 4 |
2017年 | 25 | 8 | 2 | 3 |
2018年 | 24 | 8 | 4 | 5 |
2019年 | 28 | 3 | 4 | 1 |
2020年 | 21 | 3 | 1 | 1 |
暑い日が多くなり、プール活動が始まったところもあると思います。プールでの溺水では、施設の構造に問題があるケースがあります。今年の4月には、日本人の10歳男児がベトナム南東部のリゾートホテルの子ども用プールの排水口に吸い込まれて身動きがとれなくなり溺死する事故が起きました。映像では、子どもの背中に、排水口の網目模様に一致した青黒いあざがあるのが映し出されていました。背中が排水口に張りついてしまって溺れたようです。
両脚を吸い込まれた女児 運ばれてきたが…
私は、1985年9月、学校のプールの排水口に吸い込まれた中学2年の女児の例を経験しました。水中から引き上げられるまでに30分を要し、私が勤務していた病院に搬送されましたが、5時間後に死亡しました。吸い込まれた両側の 大腿 が紫色に腫れあがっていたことをよく覚えています。水を 濾過 して再使用するために排水口が設けられているプールが多く、わが国でも50年以上も前から、プールの排水口におなかやお尻、ひざなどが張りついて死亡する例が、数年に1例は発生していたのです。
95年、プールの排水口に挟まれて死亡した小学6年の父親が文部省に陳情し、プールの排水口の調査が行われました。その結果、約3分の1のプールで排水口の防護蓋が固定されていませんでした。文部省から改善命令が出されましたが、その後も事故は起こり続けました。
事例1: 2004年7月29日、新潟県横越町の町民プールで、小学6年男児がプールの底の直径16センチの排水口に両足を吸い込まれ、2日後に死亡した。排水口を覆う鉄の蓋は固定されていなかった。
事例2: 2006年7月31日、埼玉県ふじみ野市の市営プールで小学2年生の女児が流水プールの排水口(直径約60センチ)に頭から吸い込まれて死亡した。
ふじみ野市の事故では、発生の10分前に、プール側壁の排水口にボルトで固定されているはずのアルミ製の防護蓋(約60センチ四方)2枚のうち1枚がはずれているのが見つかり、監視員が利用客に注意を呼びかけながら営業していました。消防隊員らは、ポンプ車でプールの水を抜き、重機で外部から配管を破壊して、約6時間後、排水口から約12メートル先の配管内で女児を発見しました。本来固定されていなければならないプールの排水口の防護蓋がはずれていたこと、毎日点検する必要がある排水口を、営業開始以来、一度も点検していなかったことなどが明らかになりました。
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