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ICTを活用し、発達障害の子どもを支える…体の使い方や人との関わり方を学習 自己肯定感も向上

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 実生活で困難を抱える発達障害の子どもへの支援に、ICT(情報通信技術)を活用する動きが広がっている。ゲームの要素で子どもの興味を高め、体の使い方や対人関係を学んだり、職員による指導の差をなくしたりできるという。(村上藍)

対人関係 VRで疑似体験

 さいたま市の放課後等デイサービス「スマイルリズム」の一室で、小学3年の男児(8)がゲームを楽しんでいた。プロジェクションマッピングで映し出された海辺で、次々と現れるヤドカリのキャラクターを足で踏んで撃退し、陣地を守るゲームだ。男児の動きはセンサーが判断し、ゲームが展開していた。

 ゲームは、ソフトウェア会社「サムシンググッド」が医師らとともに開発した「トレキング」で、運動に困難がある発達障害の子どもへの支援の一環だ。ゲームで遊びながら、片足立ちや体をひねる、狙った場所に足を置く、といった練習ができる。ほかにも、バランスボールに座って、画面上の数字に対し、順に手をかざしていくゲームは、座る姿勢を維持する練習になる。

 男児は、認知機能などの発達に遅れがあり、体の動きがぎこちない。靴を履く時に片足立ちでバランスを取るのも苦手だった。椅子に座っている際も姿勢を維持できずに、前方のテーブルへ倒れ込んでしまうことがあったという。だが、ゲームを楽しんでいるうちに、片足立ちや座る姿勢が維持できるようになっている。母親(41)は「体育を嫌がらなくなり、できることも増えて、自信につながったみたい」と喜んでいた。

◆「飽きずに長く」

 一般的に体を動かす際は、視覚などによって外部から得た情報を基に最適な行動を判断し、筋肉を動かすという手順を踏む。しかし発達障害の一つ「発達性協調運動障害」があると、自分が思ったように体を動かせず、生活に影響を与えるほどの不器用さや、ぎこちない動きが生じる。自閉スペクトラム症などほかの発達障害と併発していることも多い。

 作業療法士の金田笑奈さん(35)は「動作を繰り返すだけだと子どもたちは飽きてしまうが、映像やゲームだと目標が見えやすく、長く取り組める」と話す。

◆自己紹介や距離感

 仮想現実(VR)を用いて、人との関わり方を学ぶ施設もある。

 川崎市の放課後等デイサービス「はぴねす柿生」では、VR開発会社「ジョリーグッド」の開発したVR動画を使い、対人関係を学ぶ。

 発達障害の特性で、相手の気持ちを理解することが苦手だったり、人との距離感をつかめなかったりする場合がある。そこで発達障害のある子どもは、仮定の役柄を演じる施設職員を相手に、対人関係の練習をすることが多い。しかし、想像力が乏しい子どもが、仮定の役柄をイメージしにくいという問題があった。

 そこでVR専用ゴーグルをかけると、仮定の世界に入り込んだ感覚で疑似体験できる。学校での自己紹介の仕方や、消しゴムを貸してくれた友達へ礼を言う際の適切な距離感などを学べる。子ども向けVR動画の種類は100本以上あるという。VR体験後に、職員の助言を加え、更に理解を深められる。

 自閉症と診断された小学2年の男児(7)を通わせる母親(42)は、「不安があると言葉が出にくかったが、相手に合わせて回答できるようになってきた。VRは理解しやすいのだと思う」と話す。

 はぴねす柿生の山本鉄馬副所長(26)は、「職員が演じたり、説明したりすると、指導に差が生じる。VRは安定した質で学習素材を提供できる」と利点を話す。

 鳥取大の井上雅彦教授(臨床心理学)は「デジタル技術は、人への不安感がある子らの利用には効果的だ。本人に合った指導を遠隔で受けられる可能性もある。介護のICT支援のように、発達障害の子どもにも公的支援が必要だ」と指摘する。

成果を可視化、共有

体の使い方 ゲームで学習

課題の成功率が表示されたアイパックの画面の数値

 発達障害分野でのICT活用の利点の一つは可視化技術だ。保護者側も成果をグラフ等で理解できるので、施設の職員と問題意識を共有しやすい。

 発達障害の子らを支援するNPO法人「ADDS」は、子どもの周囲の環境を整え、褒めるなどして、望ましい行動を増やす「応用行動分析」に基づいた支援をしている。そこで活躍しているのが、療育支援システム「AI―PAC(アイパック)」だ。

 アイパックには、発達段階に合わせた約600の課題メニューがある。取り組みの成功率がグラフ化されるほか、適切な手助けの仕方などを動画で示してくれる。

 熊仁美共同代表は「子どもの課題への取り組み結果を可視化することで、適切な課題の設定水準がわかる。職員の経験に頼っていた発達支援を、デジタル技術で支える方式だ」と話す。

 保護者にとっても、成果がグラフ等で可視化されるので、課題の難易度や全体像が分かりやすい。情報を施設の職員と共有でき、納得できる根拠に基づいた支援計画を立てられるメリットがあるという。支援施設を移る際も、情報を引き継いで利用できる。

 神奈川県の放課後等デイサービス「ミライエ鎌倉」で支援を受ける小学2年の女児(7)の母親(41)は「アイパックは得意なことと苦手なことが可視化されてわかりやすい。できることを褒めるので、子どもの自己肯定感も向上した」と話す。

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