森本昌宏「痛みの医学事典」
医療・健康・介護のコラム
「脚を虫がはっているよう」と言う68歳女性…夜に増す不快感 「むずむず脚症候群」を改善するには?
脚に不快な症状を引き起こす病気のひとつに「むずむず脚症候群」がある。わが国での患者数は200万~500万人と推計されていることから、決してまれな病気とは言えない。小児から高齢者まで幅広くみられるが、60~70歳代を中心に、女性に多くみられる(男性の約1.5~2倍)。45歳以下でみられた場合には家族内での発症が多く、これらは遺伝によるものと考えられている。
布団に入ってからもずっとゴソゴソ
Tさん(68歳女性)は、「3年くらい前から、夕方になると脚がむずむずするようになりました。夜になるとひどくなって、眠れないんです。脚のマッサージ器を買ったんですけど楽にならない。布団に入ってからもずっとゴソゴソしているので、夫が叱るんです」と、診察室で話し始められた。「あちこちの病院を受診したんですけど、説明するのが難しい。『むずむずが気持ち悪くて動かしたくなる』としか言えないんですよ。結局、検査結果に問題はなく、処方していただいた薬もだめでした」とも訴えられた。
むずむず脚症候群では、腰から足首にかけた部分に、「表現するのが難しい」不快感、異常感などが生じる。痛みやしびれではないことから、自身の症状を医師に説明することが難しく、医師の間でもその認知度は高くないことなどから、患者さんは何科を受診していいのかが分からずに、Tさんのようにドクターショッピングを重ねていることが多い。
横になっている時などに、「脚がむずむず」「脚を虫がはっている」または「脚がほてる」と訴える。脚をじっとさせていられず、起き上がって動かしたくなることが「レストレス・レッグス」と名付けられたゆえんである。夕方から夜にかけて起きることが多く(動いていないと起きる)、そのため「布団に入っても寝つけない」「眠りが浅く何度も目がさめる」ということになり、慢性的な睡眠不足を引き起こす。
ドーパミンを作る細胞の鉄分不足
原因としては、ドーパミン(脳からの指令を伝える神経伝達物質の一種)の不足、脳内の鉄分の不足、脊髄や 末梢 神経の障害、遺伝などが考えられてきた。アルコールやカフェインのとり過ぎが一因だとする報告もある。しかし現在では、中脳でドーパミンを作っている細胞の鉄分不足が主因であるとする説が有力視されている。脳内に貯蔵されている鉄の量を測定することはできないが、血清フェリチン(細胞内で鉄を貯蔵するたんぱく)が20μg/L以下の場合、発症と関連する。ドーパミンは、貧血があったり、血液透析を受けていたりする場合、不足に陥りやすい。
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