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「飲酒は膵がん危険因子」を日本データで証明 愛知県がんセンター

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 飲酒は膵がんの危険因子であることが欧米人を対象とした研究では示されているが、日本人でのエビデンスは乏しかった。愛知県がんセンターがん情報・対策研究分野主任研究員の小栁友理子氏らは、症例対照研究により日本人においても飲酒が膵がんの危険因子であり、膵がん発がんにはALDH2遺伝子変異が関与していることが示されたとCancer Sci( 2022;113:1441-1450 )に発表した。

ALDH2遺伝子多型に着目

「飲酒は膵がん危険因子」を日本データで証明 愛知県がんセンター

※画像はイメージです

 膵がんは、初期にはほとんど症状がなく、発見時には進行していて治療困難な場合が多い。予後不良であるため、予防可能な危険因子の同定は公衆衛生上重要な課題の1つとなっている。

 飲酒に伴う発がんメカニズムの1つにアセトアルデヒドによるDNA損傷がある。アセトアルデヒドはALDH2により無害な酢酸に分解されるが、日本人の約半数がALDH2遺伝子上のrs671多型Aアレルを保有している。

 Aアレル保有者はアセトアルデヒドの分解能力が低く、飲酒によるアセトアルデヒド曝露量の上昇に伴い頭頸部や食道がん、乳がんなどさまざまながんのリスクが高まることが知られている(関連記事「 アルコール代謝関連遺伝子と飲酒による乳がんリスクを検討 」)。

 一方で、rs671多型のAアレル保有者はアセトアルデヒドが体内に蓄積することで引き起こされるフラッシング反応(少量の飲酒で、顔が赤くなる、頭痛、動悸、吐き気などが生じる)により飲酒行動が抑制され、発がんリスクの低下も認められる。

 小栁氏らは、日本人における飲酒行動と膵がんとの関連および発がんメカニズムを明らかにする目的で症例対照研究を実施。飲酒およびrs671多型のAアレル保有と膵がんの関連について検討した。

多量飲酒者と膵がんに有意な関連

 対象は、愛知県がんセンターが25年にわたって行っている大規模病院疫学研究(HERPACC研究)に参加した膵がん群426例と、性・年齢をマッチングさせた非がんの対照群1,456例。

 条件付きロジスティック回帰モデルを用いてrs671多型のAアレル保有、環境因子、飲酒量、喫煙習慣、BMI、膵がんの家族歴などの共変量を調整し、飲酒による膵がんリスクのオッズ比(OR)を算出した。

 解析の結果、飲酒は膵がんリスクと関連し、特に多量飲酒(飲酒量46g/日以上=日本酒換算2合/日以上)との有意な関連(OR 1.57、95%CI 1.00~2.46)が認められ、欧米人同様に日本人でも飲酒は膵がんの危険因子であることが示された( 図1 )。

図1.飲酒と膵がんリスクとの関連

「飲酒は膵がん危険因子」を日本データで証明 愛知県がんセンター

 しかし、rs671多型のAアレルと飲酒が組み合わされることでリスクがより高まる遺伝子・環境要因の交互作用を評価したところ、先行研究と同様に有意な関連は認められなかった(P>0.1)。すなわち、rs671多型のAアレル保有者において飲酒量の増加は膵がん発がんに関与せず、飲酒と膵がんとの関連には、酸化ストレスや飲酒に伴う膵炎など、アルコール由来のアセトアルデヒドによるDNA損傷以外のメカニズムが示唆された。

 そこで、小栁氏らは媒介分析を行い、rs671多型のAアレル保有者における〈1〉ALDH2が本来の働きをしないことにより発がんリスクを上昇させる直接効果、〈2〉飲酒行動を抑制し発がんリスクを低下させる間接効果ーを評価した( 図2 )。

図2.rs671多型および飲酒行動と膵がんの因果関係図

「飲酒は膵がん危険因子」を日本データで証明 愛知県がんセンター

 その結果、rs671多型のAアレルの保有は、有意な発がん効果(直接効果:OR 1.34、95%CI 1.04~1.72)と有意な保護効果(間接効果:同0.86、0.77~0.95)に関連することが明らかになった( 図3 )。

図3.rs671多型 Aアレル保有者の膵がん発がんにおける直接効果・間接効果

「飲酒は膵がん危険因子」を日本データで証明 愛知県がんセンター

(図1~3とも愛知県がんセンタープレスリリースより引用)

飲酒に加えアルコール由来でない物質が関わっている可能性

 ALDH2はアセトアルデヒド以外にも、たばこ煙に含まれるホルムアルデヒドや体内で合成される内因性アルデヒドなどの発がん物質を分解することが知られている。小栁氏らは「飲酒によるアセトアルデヒド曝露量の増加が膵がんの発がんリスクに関与しない可能性があるにもかかわらず、rs671多型のAアレル保有者では直接的な発がんリスクが高いという結果は、アセトアルデヒド以外の物質が膵がん発生に関与している可能性があり、それらの特定が重要」と考察している。

 また、rs671多型のAアレル保有者が飲酒行動の抑制により膵がんに対し保護効果を示したことは、rs671多型のAアレル非保有者においても飲酒を控えることで膵がんリスクが低減できることを示唆している。

 同氏らは「今回の知見を基に、膵がん発がんメカニズムのさらなる解明や遺伝的背景を考慮した膵がんの個別化予防促進を目指す」と展望している。(小野寺尊允)

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