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武井明「思春期外来の窓から」

医療・健康・介護のコラム

ノートの字を何度も書き直す高1女子 強迫症状を忘れさせたのは「推し活」だった

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 自閉スペクトラム症の子どもたちにみられる障害特性のひとつに、「こだわり」があります。このこだわりのなかには、それほど気にしなくてもいいことだとわかっていても、その考えが繰り返して頭のなかに浮かび(強迫観念)、それを打ち消すために同じ行為を繰り返す(強迫行為)という「強迫症状」との境界があいまいな場合もあります。今回は、もともと軽度の自閉スペクトラム症傾向をもちながら、強迫症状を乗り越えていった高校生を紹介します。

先生が黒板の字を消すまでに書き写せない

ノートの字を何度も書き直す高1女子 強迫症状を忘れさせたのは「推し活」だった

 優奈さん(仮名)は、「ノートをとるのに時間がかかる」ということで、思春期外来を受診した女子高校生です。

 両親との3人家族。歩き始めや言葉の遅れもなく、手がかからない子でした。引っ込み思案で、幼稚園ではなかなか他の園児のなかに入ることができず、誘われたら輪に加わるという子でした。音には、やや過敏なところがありました。自宅では絵本を一人で何時間も読んでいて、お母さんが教えなくても、ひらがなを覚えてしまいました。

 小・中学校時代は、数少ない友だちとのみ遊んでいました。手を挙げてみんなの前で発言することを好まない子でした。しかし、ノートはいつもしっかりととっていました。ところが高校に入学後、優奈さんは、ノートに書いた字を何度も書き直すようになりました。そのため、先生が黒板の字を消すまでにノートに書き写すことができなくなりました。困った優奈さんがお母さんに相談し、高校1年の夏休み明け、お母さんと一緒に思春期外来を訪れました。

「友だちを作らなくては」と思っているうちに

 初診時の優奈さんは、とても緊張していました。

 「ノートに書いた字が正確に書けていないのではないかと考えて、何度も消しゴムで消しては書き直してしまうんです。字が正確に書けるかどうかが不安で、授業がつらくてしかたありません。自宅でも字を何度も書き直すので、勉強がはかどりません」

 と言って泣きだしました。

 字を書くことへの強迫観念と、字を何度も書き直す確認行為がみられる強迫性障害ということで、お母さん同伴で2週間に1度、通院してもらうことにしました。背景には軽度の自閉スペクトラム症の傾向があるかもしれないと、お母さんには説明しました。ごく少量の精神安定剤を飲んでもらうことにしました。

 通院を始めて明らかになったことは、高校入学後の優奈さんは、友だちができず、休み時間はいつも一人きりだったことでした。「もっとがんばって友だちを作らなくては」と思っているうちに、「字を正確に書かなくてはいけない」と考えるようになったと話してくれました。その後も、積極的に相手とかかわることがないため、なかなか友だちができませんでした。

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武井 明(たけい・あきら)

 1960年、北海道倶知安町生まれ。旭川医科大学大学院修了。精神科医。市立旭川病院精神神経科診療部長。思春期外来を長年にわたって担当。2009年、日本箱庭療法学会河合隼雄賞受賞。著書に「子どもたちのビミョーな本音」「ビミョーな子どもたち 精神科思春期外来」(いずれも日本評論社)など。

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1件 のコメント

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勉強になりました。

ぴよこ

これと怖いぐらい似ている小学生の娘がいます。解決済みですが、完璧になるまで書き直す強迫観念も入学後にありました。記事のお嬢さんは、ひょっとして、...

これと怖いぐらい似ている小学生の娘がいます。解決済みですが、完璧になるまで書き直す強迫観念も入学後にありました。記事のお嬢さんは、ひょっとして、先生から「早く友だちを作りなさい」などのプレッシャーをかけられたり、「一人はダメ」というような空気を敏感に感じ取ってしまったのではないのかなと思いました。とはいえ、私も、娘が思春期を迎えたら一人でいることの強さを失い、自信を無くして不安感が強まるのではないかと、危惧しています。今、親ができることは、娘が自分の魅力を理解して自信を持ったり、自分の弱さも理解して「それでもいい」と許容できる肯定感を育ててあげることかと思っています。

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