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「心臓の肥満」とも呼ばれる中性脂肪蓄積心筋血管症…患者は数万人いる可能性も
中性脂肪が心臓や血管にたまり、重い心不全や狭心症を引き起こす病気があります。「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)」です。近年、診断基準が作られ、病気の進行を止めて回復を目指す薬の開発も進められています。(長尾尚実)
患者推計数万
「心臓の肥満」とも呼ばれるTGCVは2008年に日本で発見されました。20年末時点で診断された国内の患者は336人ですが、診断されていない事例も多いとみられ、患者数は数万と推計されます。
肉や魚、卵などに含まれる中性脂肪は体を動かすエネルギー源で心臓や肝臓、筋肉で多く消費されます。しかし、これをうまく分解できないと、心臓の筋肉や心臓に血液を送り込む冠動脈の細胞内にたまり、心臓の肥大や動脈硬化を引き起こします。
血液中にコレステロールがたまる生活習慣病の動脈硬化とは違いがあります。一般的な動脈硬化では動脈の管の内側にコレステロールが沈着していきますが、TGCVは血管の細胞内に中性脂肪が蓄積された結果、血管が厚くなって、血液の通り道が狭くなります。
仙台市の川村郁子さん(61)は14年、心臓から全身に血液を送るポンプの機能が弱まって血液が滞る状態となって、東北大病院に入院し、TGCVの可能性を告げられました。
TGCVの患者は、心不全や狭心症などの診断を受けているケースがあります。治療を繰り返しても改善が見られなければ、この病気の可能性があります。じっとしていても胸が痛み、息苦しくなることがあります。
中性脂肪が蓄積するのは心臓だけではありません。体を支えて動かす骨格筋の細胞に中性脂肪がたまると、全身のエネルギーが足りなくなります。疲れやすい、手足の先が冷たい、空腹や寒い時期がつらく感じるといった傾向も見られます。
ただ、TGCVは血液検査では発見しづらいです。細胞内に中性脂肪がたまっても、血液に含まれる中性脂肪の値に直接影響するわけではないからです。健康診断や人間ドックでも見つからない場合が多いです。
治療薬の候補
診断には、心筋細胞内での中性脂肪の分解状況を、放射性医薬品を使って画像化する「心筋脂肪酸代謝シンチグラフィー」が重要となります。
次に、レントゲン検査で調べる方法もあります。TGCVになると、動脈硬化が進んだ冠動脈全体が枯れ枝のように細く写るのがポイントです。
治療薬の候補も見つかりました。母乳に含まれる「カプリン酸」です。心臓の細胞内にたまった中性脂肪を溶かし、細胞のエネルギー源になることがわかってきました。製薬会社「トーアエイヨー」(東京都)が治療薬実用化に向けた臨床試験を行っています。
専門の医師が所属する医療機関や患者会などの情報は、病態解明を進める厚生労働省研究班のウェブサイト(https://tgcv.org/)に載っています。
この病気を発見した中性脂肪学会代表理事で大阪大特任教授の平野賢一さんは「治療には早期発見が大切です。気になる症状があれば、専門医に相談してください」と話しています。
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