森永康平「患者と医師のコミュ力を育てる」
医療・健康・介護のコラム
「ひどい生理痛」と思っていたら子宮体がん…症状悪化に大病が潜むことも 軽視せず診察を
「生理」と聞くと、どのような情報が頭の中に想起されるでしょうか。
男の性である自分には、そうたやすく“わかるわかる”なんてことは言えないのですが、これまでの診療経験から、症状も軽く、日常生活に支障がない人もいれば、「子宮をとってしまいたい」という言葉が出るほど、出血がすさまじい人もいます。
目の前の相手が困っているのならそれは“問題”
映画にもなった「生理ちゃん」という漫画では、女性が生理になるとピンク色のキャラクターが来訪し、下腹部を何度も殴り、血を抜いたり、眠くなるガスを吸わせたりする……といった具合に体調変化を表現しています。すごいな、と思ったのは、女性によってパートナーとなる生理ちゃんが描き分けられていて、性格や見た目、殴る腕力もバラバラなのです。
例えば、月経のある女性は毎月、出血しているため、鉄欠乏性貧血になる人も多いのですが、その程度は様々です。患者さんには、ヘモグロビンの数値が6g/dlくらいと、私の半分くらいしかない人もいて、「生理の出血量はそれほど個人差があるのか」と目を見張ったことがあります。
というわけで、この出血量も期間も体調変化も個人差が大きい症状について、「生理って●●でしょ?」と簡単に答えるのは難しいかもしれません。知識や情報は理解・整理しやすいように境界をはっきりさせたもの、凸凹した個人差を平らにならしたものが多く、それだけではマイナーな存在を見誤ってしまうリスクがあります。それをわきまえなければ、話を進めることができません。一方で患者さんが十分に訴えを出し切る前に、訴えを否定されたり、評価されたり、軽視されたりすると、以降は口をつぐんでしまうこともあります。
「1か月前から痛みや出血がひどく…」
このようなこともあります。
患者さん「生理痛が昔からひどくて……。痛み止めがほしいんですけど」
こんな訴えは非常にありふれていますし、診察では「鎮痛薬を出して終了」とすることは、もちろんできます。しかし、
医師「なるほど、痛いのはつらいですね。これまで医療機関を受診されたことはありますか?」
患者さん「ないです」
医師「そうなのですね。今回、受診しようと思ったのは、何かしら、症状の変化があったからですか?」
患者さん「1か月前から痛みや出血がひどくなっている気がします。仕事のストレスのせい、と思っているのですが」
と、こんなちょっとしたやりとりから産婦人科の受診につながり、「精密検査をしたら、子宮体がんによる症状だった」といったケースもあるのです。
そういった意味でも医療では、“もっともらしさ”に当てはめることで、困っている当事者を、時に置いてけぼりにして進めてしまう危険があります。これは非常に怖いことだと思います。患者さんが私たちに開示しきれていない情報や思いがあるかもしれません。
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