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産業医・夏目誠の「ストレスとの付き合い方」

医療・健康・介護のコラム

新しい仕事についていけず「自分は駄目」と悩む49歳女性事務職……自己肯定感を高めることで仕事への意欲を回復

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ベテランゆえに新しいシステムの運用に苦労

 カウンセリングで彼らは、駄目な点や短所を繰り返し訴えることが多く、自分から長所を語ることはありません。そのためこちらから、話を聞きながら、一緒に見つけていきます。言動をさりげなく、かつ細やかに長期に観察すること。その過程で見つかります。

 ひとつの事例を紹介します。私が対応した数人をモデルに、共通するポイントを抽出して、やりとりを再現してみます。販売会社総務課に正社員として30年勤務する加藤和子さん(49歳、仮名)です。一般職で総務、経理、販売事務の3部門を異動しながら働いてきたベテランの主任さん。現在は、総務課で、事務のデジタル化の補助的な役割を担っています。新しい機器やシステムの運用を身につけるために努力していますが、専門用語も多く苦労しています。

ベテランのプライドで質問しづらい

 生え抜きのベテラン、主任というプライドが、若い人に質問することをためらわせます。業務のスピードが若手と比べて遅い感じがしています。「『さすがベテランは違う』と言われたこともあったのに、なんだか自分は業務についていけてない」と悩んでいました。意を決して「高ストレス者面談」を訪れました。加藤さんは悩みを一気に吐き出しました。自分が歯がゆいようで、落ちこんでいます。訴えを傾聴しました。

悩みは仕事がうまく回らないこと

 彼女は自信をなくし、自己を見失いつつある状態です。そこで自己肯定感を取り戻す働きかけが必要と判断しました。以下、3回行った面談のやり取りです。わかりやすくするために再構成しました。

産業医 : 自信をなくされていますね。加藤さんの良い点があると思いますが?

加藤さん: う~ん。良い点というか、私が悩んでいるのは、仕事がうまく回らないことなんです。仕事の進め方が変わってきていて、仕事をどうするかが問題です。

 加藤さんは仕事のことで悩んでいて、「良い点を見つける」という私の提案はピントがズレていると感じたようです。「仕事がうまくできない」という一点に気持ちが集中して、「自分は駄目」という感情を持ってしまっています。やはり加藤さんの自己肯定感を高める必要があります。やり取りの過程で、子どもがいることがわかりました。そこで子育てと両立しながら働いてきたことを話題にしてみました。

産業医 : 2人のお子さんは社会人として独立されていますね。働きながらですから、子育ては大変だったでしょう。

加藤さん: (意外そうな表情)大変でしたが、やらなければいけないことですし、母親ですから(そう言いながらも背筋がしだいに伸び、表情に笑みがさしてきました)。

産業医 : すごいことですよ。頑張ったんですね。子育てに正解はないし、仕事のように成果が評価されるわけではありません。その意味で、大変なばかりで手ごたえがない面もありますね。仕事との両立は大変だったでしょう。

加藤さん: (表情が生き生きとしてきました)大変でした。無事、2人とも成長して働いていて、ほっとしています。

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夏目誠(なつめ・まこと)

 精神科医、産業医、大阪樟蔭女子大学名誉教授。40年以上13企業の精神科医として従業員の診療や相談、啓発普及(講演1500回)、復職支援に関与しメンタルヘルスの向上に取り組んでいる。人事院・心の健康づくり指導委員会委員、日本産業ストレス学会元理事長。
 著書に Amazon.co.jp:「35歳からのメンタルヘルスー事例でわかる働く人と家族のストレス対策」、「中高年に効く! メンタル防衛術」、「職場不適応サイン」など多数。
夏目誠の公式ホームページ (natsumemakoto.com) 精神科医マコマコちゃんねる - YouTube

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