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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

文福の“看取り活動”に異変…入居者の逝去を直前まで“察知”できず、いきなり最期に寄り添う

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文福 “看取り活動” 異変…入居者の逝去を直前まで“察知”できず、いきなり最期に寄り添う

文福(左)にひときわ好かれた新山さん(右)

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」で今月初め、ホームの飼い犬で元保護犬の「 文福(ぶんぷく) 」が、入居者をまた“ 看取(みと) り”ました。

 文福は、自分と同じユニット(区画)で暮らす入居者の方の逝去が近いことを“察知”すると、その方に寄り添ってその最期を“看取る”という活動をしています。

 文福のこの看取り活動は、通常、三つの段階を踏みます。まず入居者が逝去される1~2日前に、その方の居室の扉の前に座ってうなだれます。犬たちはユニットの中で自由に暮らしていて、どの入居者の部屋にも自由に出入りしています。だから文福は、普段はその方の部屋に好き勝手に入って行きますし、ベッドに上がることもよくあります。しかし看取り活動の第1段階の時は、部屋に入ろうとしません。

 第2段階になると、部屋に入り、ベッドの脇に座って、入居者のことを見つめます。

 そして、ベッドに上がって寄り添うのが第3段階、すなわち最期の時です。入居者の最期の時に寄り添って看取るのです。

 これは、もちろん私たちが教えたことでも、命令したことでもありません。そもそも入居者が逝去されるのをいつ察知するのかわかりませんので、教えるなど不可能です。そして、やめさせることも不可能です。やめさせるには、文福をつないでおくか、ケージに閉じ込めておくしかありませんので……。

 ユニットは居室10室、リビング、キッチン、3か所のトイレ、浴室、脱衣室からなる10LDKのマンションのような構造です。「さくらの里山科」には全部で12ユニットがあり、このうち、犬と暮らせるユニットが二つ、猫と暮らせるユニットが二つあります。それぞれのユニットの中で、犬、猫は自由に暮らしています。なお、ペットが嫌いな方やアレルギーの方に配慮して、他のユニットに犬、猫は出入りさせません。

 科学的に説明することは難しいのですが、私たちは、文福がにおいによって入居者の逝去が近いことを察知しているのではないかと推測しています。特別養護老人ホームで看取られる入居者の大部分は、体が衰え、食べることも、飲むこともできなくなり、木が枯れるように自然に亡くなられます。その衰えていく体のにおいの変化を文福は敏感に感じ取っているのではないかとも考えているのです。

 今月逝去された新山文子さん(仮名、90歳代)の場合、文福の看取り活動は、いきなり第3段階から始まりました。文福も、逝去される直前まで察知することができなかったのです。おそらく、新山さんの体が急激に衰えたせいだと思います。逝去される前日、新山さんは、わずかですが、水を飲むことができました。それならば重湯が飲めるかもしれないと、介護職員は管理栄養士と相談していました。職員たちは、まだ多少の栄養分と水分を体が受け付けられる状態、すなわち逝去までは少し時間がある状態だと考えていたのです。文福にとっても、前日の段階では、まだ逝去を察知できるような状態ではなかったのだと思われます。

 逝去される数時間前、文福はそっと新山さんの部屋に入って来ました。その様子が、いつものような自由気ままに入ってくる時とは何となく雰囲気が違っていたので、居合わせた職員はハッとしたそうです。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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