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介護施設の入居者に対する身体拘束 ゼロへの努力…「責任回避」からの反省

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 介護施設では、入居者の体の一部を縛ったり、ベッドを柵で囲んだりする身体拘束は「人間の尊厳を奪う行為」として、原則的に禁止されている。ただ、限定した用途では認められているほか、施設側の管理上の都合などから、身体拘束をする現場はなかなかなくならない。時間をかけて拘束ゼロに取り組み、実現した施設を訪ねた。(板垣茂良)

10年間の取り組み

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車いすの男性と話す岡田さん。この男性は沼風苑で暮らす前に入院していた病院で、車いすに拘束帯で固定されていたという(3月、千葉県柏市で)

 「身体拘束をゼロにすることを目指してから、昨年6月に実現するまで、およそ10年かかりました」。千葉県柏市の特別養護老人ホーム「沼風苑」(定員112人)の副施設長、佐久間尚実さん(60)は振り返る。

 同施設ではかつて、「転落防止を理由に、約30人のベッドが柵で囲まれた状態だった」(佐久間さん)という。柵で囲むことは、厚生労働省の施設運営基準などに基づくと「身体拘束」に該当するが、入所者の安全を管理する施設側にとっては必要だと考えていた。ただ、入所者側からみると、不当に身体拘束されていると判断されかねない状態だった。

 このほか、認知症の入所者の場合、鼻に通したチューブを自分で抜かないように、両手にミトン型の手袋をはめさせたり、ベッド柵に両手首を縛り付けたりしている事例もあったという。

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専門家の指摘が契機

 「私たちの当たり前が、実はおかしいのかもしれない」。同施設の介護主任、岡田麻衣子さん(38)が、気づき始めたのは約10年前だ。出席したセミナーの専門家から指摘を受けたためだ。早速施設で現状を改める取り組みを始めたが、実際は簡単ではなかった。

 まず取り組んだのは、入所者を丁寧に観察することだった。体をかきむしらないように両手にミトンをはめていた90歳代の女性を注意深く観察した。「食事中はかいていないことに気づいた」と岡田さんは話す。そこで「することがないのが原因かもしれない」との仮説を立てた。そして女性をほかの入居者との交流の場に連れ出してみると、かきむしる行為は徐々におさまったという。

 ベッド柵についても、職員が気になる部屋を頻繁に巡回したり、離床を感知するセンサーを設置したりすることで、取り外しは進んでいった。個別の安全を確認しながら一人ずつ半年から1年かけて、柵を外していったという。

ケアの質が向上

 さらに外部からのチェックも強化した。職員の認知症ケアの様子を、専門家に来てもらって、評価を受けた。こうした取り組みの中で佐久間さんは、「身体拘束ゼロとケアの質の向上は同じ方向にあることが分かってきた」と話す。

 沼風苑では拘束を撤廃したことで、大きな事故につながったケースは生じていないという。岡田さんは現場での取り組みを通じて「身体拘束はお年寄りの安全のためではなく、自分たちの責任回避のためにしていたのだ」と気付かされたという。

 入所者の家族からは依然として「施設に迷惑をかけたら申し訳ない」「けがをさせたくない」と、拘束を含めたケアを施設に求めることもあるという。こうした家族に対して施設側は、見守りへの考え方を説明するなど理解を得る努力を重ね、拘束ゼロへの取り組みを堅持している。

絶えぬ拘束 なくす難しさ

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 身体拘束を撤廃した施設がある一方、高齢者虐待にあたる身体拘束は、増加に転じている。

 「家族と思ってお世話します」。そんな理念を掲げている山梨県内のある介護老人保健施設で昨年2月、男性介護福祉士が入所者2人に、不適切な身体拘束を行っていたことが発覚した。

 施設を指導監督する自治体によると、この職員は昨年2月上旬の夜勤時、障害のある60歳代の男性に対し、手をタオルできつく巻いたり、ミトンをはめたりして、看護師を呼び出す「ナースコール」のボタンを押せないようにした。また、認知症がある90歳代の女性に対しても、部屋から出られないように身体拘束をした。職員は調査に対し、約1年半前から身体拘束をしていたことを認めた。同僚に「動けないようにすれば、仕事が楽でいい」などと話していたという。

 施設側の報告で問題を把握した自治体は、立ち入り調査を実施。高齢者虐待や介護放棄に相当するとして、施設に再発防止と改善報告を求めた。

 原則禁止の身体拘束だが、国は、〈1〉命や身体に危険が発生する可能性が高い〈2〉他に手段がない〈3〉一時的な対応である――という3要件を全て満たせば、例外的に認めている。ただ、今回のケースでこの職員は3要件を満たすかどうかを、施設側に相談していなかった。

 厚生労働省の高齢者虐待に関する調査によると、こうした例外には該当せず、虐待とみなされる身体拘束は、2020年度は全国で317人が受けていた。2年前と比べて50%以上も増加しており、虐待をなくすことの難しさが浮き彫りとなった。

 同省高齢者支援課の担当者は、「認知症の症状が重い人が施設に増え、知見と技術が不足している人が対処したことも背景にあるのではないか」と話す。今後は研修などを通じて、ケアの技術力を高めていくなどの改善策が求められそうだ。

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