解剖学者 養老孟司さん
一病息災
[解剖学者 養老孟司さん]心筋梗塞(5)飼い猫「まる」に学んだ生老病死
2020年7月、心筋 梗塞 の治療を終えて、鎌倉の自宅に戻ると、飼い猫のまるの具合が悪くなった。折れ耳のスコティッシュフォールドの雄猫で、まるっこく貫禄のある様子は、テレビや新聞に繰り返し取材されて、有名になっていた。
「まるは、したいことをして、いたい場所にいるだけ。身体の声に正直な生き方を教えてくれた」
寝てばかりになったまるの姿が、11月のある日、見えなくなった。林の中でじっとしているのを見つけて連れて帰った。それから1日おきに動物病院で胸水と腹水を抜いたが、12月21日に息を引き取った。18歳、人間なら90歳に相当する。
「私とまるとどちらが先かと言っていたんですけどね」。思い出と写真を集めた1冊「まる ありがとう」(西日本出版社)を、昨年末に刊行した。
「生き物はいずれ100%死ぬ。ところが、現代の都市化した社会では、人間は自然から離れ、死を異常なものと見てしまう」
人工物ばかりに囲まれて暮らしていると、今回のコロナ禍のように、生老病死という自然に向き合わざるを得ないとき、戸惑うのではないかと憂慮する。
退院後、鎌倉の自然の中をよく散歩する。お供はスマホの植物識別アプリ。道端の草花を撮影すると、名前や解説が表示される。
以前、いたずら心から、昼寝中のまるを写してみたことがある。「返事は『植物が見つかりません』でしたよ」(文・小屋敷晶子、写真・林陽一)
養老さんが飼っていた猫「まる」の写真はこちら
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解剖学者 養老孟司 さん(84)
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