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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

飼い主と愛犬の「後輩サリーちゃん」が電撃入居…ひやひや、ドキドキ ここにもコロナとの闘いが!

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電撃入居した飼い主と愛犬の「後輩サリーちゃん」…ひやひや、ドキドキ、ぎりぎりのタイミング、異例のスピード入居だったわけは?

中井さんの腕の中でご満悦の「後輩サリーちゃん」

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」に2020年11月、新型コロナウイルス感染拡大の第2波と第3波の 間隙(かんげき) を縫うように、電撃入居した高齢者と愛犬がいます。

 電撃入居なんて書いてしまいましたが、入居の申し込み自体は約半年前にされていたのです。だから、準備期間があったという点では、ちっとも電撃ではなかったのですが、私たちにとっては、新型コロナ感染拡大の一瞬の隙を狙った、ひやひや、ドキドキものの、まさに電撃入居だったのです。

 中井アサさん(仮名、80歳代)と愛犬の「サリーちゃん」(ヨークシャーテリアとチワワのミックス犬)の入居申し込みがあったのは、2020年4月のことです。当時、中井さんは、ある県(プライバシー配慮のため県名は控えました)の山林に囲まれた広い家で一人暮らし、いえ、サリーちゃんとの“二人暮らし”をしていました。しかし中井さんは、自力で長い距離を歩けない状態で、街から離れた家で暮らすのが困難になっていました。それでも「サリーちゃんと離れるのは絶対に嫌だ」といって、必死に頑張っていたのですが、限界が近いのは明らかでした。

 そこで、都内で暮らす息子さんが、「さくらの里山科」を見つけ、サリーちゃんとの同伴入居を申し込まれたのです。中井さんも、サリーちゃんと一緒なら老人ホームに入ってもいいと納得してくれました。

 息子さんと面談したホームの相談員は「緊急性が高い」と判断しました。愛犬のサリーちゃんと一緒の入居を望んでいるので、「さくらの里山科」以外の選択肢がなかったのです。自宅での生活が限界に近く、他の選択肢がない以上、入居優先度は最上位になると判断しました。

 入居順位が高い方には相談員が直接会い、ご本人のご状態や、それまでの生活などを詳しく調べる実地調査を行います。ところが、この時、2020年4月は、新型コロナウイルス感染拡大の第1波の真っただ中だったのです。感染者急増を受けて緊急事態宣言が全国に拡大され、都道府県をまたいだ不要不急の移動の自粛が求められている時期でした。相談員が他県にある中井さんの自宅まで行くわけにはいきません。そもそも、中井さんとサリーちゃんも、神奈川県横須賀市にある「さくらの里山科」に入居することができません。

 息子さんに相談したところ、中井さんは、まだ少しは自宅で頑張れるということでしたので、新型コロナの感染が落ち着くまで待っていただくことにしました。

 ここからの半年間は、まさに、ひやひや、ドキドキの繰り返しでした。

 まず、新型コロナの感染状況を注視していかなければなりません。感染者が減った5月中に緊急事態宣言は解除されましたが、私たちは念のためもう少し様子を見ることにしました。すると、夏に第2波が始まってしまったのです。「しまった、5月に実地調査に行くべきだった」と激しく後悔しました。

 次に、ホームの部屋の空き状況も問題となります。「さくらの里山科」は全100室。そのうち犬と一緒に暮らせるのは20室だけです。そこに空きが生じ、さらにその時点で感染拡大が収まっていて遠距離移動ができる状況になっていないと、中井さんの入居は不可能です。その一方で、私たちは中井さんのために部屋を長期間空けておくことはできません。実際、5月に空室ができたのですが、申しわけありませんが、中井さん以外の方に入居していただきました。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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