Dr.イワケンの「感染症のリアル」
医療・健康・介護のコラム
新型コロナの「反ワクチン問題」 「なあなあ」で済ませてはいけない理由とは
「生命リスクが高い山」でも登る理由があるのなら
ぼくは以前、北京の診療所で家庭医として勤務していたことがあります。そのときに、アジアの高い山に登りたいから高山病予防の薬を処方してくれ、と頼まれたことが何度かあります。
一般論で言えば、高山病のリスクが高いような登山は生命リスクが高いので、生命維持や長寿という観点「だけ」を考えるならば、「そんな山には登らないほうがよい」ということになります。事実、歴史上、名高い登山家が何人も山で命を失っています。しかし、登山家にとって登山の価値は非常に高いのです。「生きている理由が山に登ること」である人も少なくありません。生きる理由が登山なのに、それを登るな、とアドバイスするのはナンセンスなことだと、ぼくは思います。
医療者はすべてリスク・マネジメントのプロですが、リスク・マネジメントとは、リスクの存在を全否定することではありません。登山家なら登山家の、F1レーサーならレーサーの、宇宙飛行士なら宇宙飛行士の内在するリスクを、そのミッションを遂行することを前提として最小化するのがリスク・マネジメントです。
例えば、注射が痛いのは絶対にイヤだ、という価値観をお持ちの方に、「注射が痛いくらいなんだ。我慢しろ」というのは正しい医療者の姿ではありません。人それぞれに価値観があり、その価値観そのものを否定する権利はぼくらにはないからです。
反ワクチンに陥る理由は様々ですが、反ワクチンの方々は、彼らなりのワクチンに反対する価値観をお持ちです。我々は、ワクチンについてのフェイクな情報は否定する必要がありますが、「ワクチンは打ちたくない」という、その価値観「そのもの」を否定する権利はないのです。
しかし、それは反ワクチンな方々についても同じこと。彼らにはワクチンを接種する医療者やワクチンを接種しに来た方の邪魔をする権利はありません。ましてや、法を曲げて侵入するなど、もってのほかです。
2 / 4
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。