【1】ギャンブルの沼 6 オンラインカジノ――ポケットの中の断崖絶壁
シリーズ「依存症ニッポン」
オンラインカジノ――ポケットの中の断崖絶壁(下) スマホから手招きする「ハニートラップ」の代償
社会人として帳尻は合わせていたが…
生活の場は大阪から東京へと移った。サラリーマンとして、毎日、スーツに袖を通すことで、少しは気持ちも生活もシャキッとした。負けず嫌いで見えっ張りな性格は、ここでもプラスに働いた。会社組織にいる限り、「仕事ができないヤツ」にはなりたくない。配属された営業部では、毎日、しっかりと仕事に打ち込んだ。素顔のセイタは、穏やかな口調の物腰からも、育ちの良さが伝わってくるタイプだ。社内でも営業先でも評判は悪くなかった。
勤務先のオフィスを見回すと、周囲で働いている先輩や同僚は、真面目な堅物ばかりで、ギャンブルに入れ込んだり、キャバクラや風俗に出入りしたりするようなタイプは一人もいなかった。セイタも空気を読みつつ、社会人としての帳尻はしっかり合わせた。自堕落な学生生活を続けてきたわりには、会社の仕事は嫌いではなかった。
それでも。
入社直後こそ気を張っていたが、日々の生活に慣れてくると、あまりにも刺激が足りなかった。日本の新卒サラリーマンの給料は、地道な労働対価としては物足りない。どこの会社も似たり寄ったりだとしても、もう少し金が欲しかった。
そうなれば、自明の理。社会人1年目を終えると、刺激と金銭への「渇き」に耐えかねて、再び馬券を買うようになった。かつては週末の中央競馬だけだったが、平日には地方競馬が開催されている。仕事中にそっとスマホを使って馬券を買い、しばらくして結果を確かめるだけなら、平日のサラリーマンにもできる。
預金はほとんどなかったため、資金は消費者金融やクレジットカードのキャッシングに頼った。学生時代に比べて融資枠も大きくなっていた。100万円を借りて、1・1倍しか配当のつかないガチガチの複勝馬券に突っ込めば、かなりの確率で10万円のリターンを得られる。
リスクは大きいが、うまく資金は回転した。毎月、借金の利子だけはきっちりと返済し、増えた金で高級風俗店に出かけることもあった。学生時代に痛い目を見たことなど、とっくに喉元を過ぎ、熱さは過去に置き忘れていた。
だが、その過去が亡霊のようによみがえった。かつての再現ループに入ったように、同じことが起きた。
ある日、確信をもって買った本命馬券が、連続して負けた。あっという間に銀行口座は空になり、今度は消費者金融からの大きな借金が残った。とても会社の給料だけで返せる金額ではない。
とにかく利子だけでもなんとかしないと、返済の取り立てで大変なことになる。消費者金融からの借金など、絶対に会社にばれてはならない。とりあえず、ネットオークションで手持ちのアクセサリーを売るなどしながら、その場しのぎを続けた。
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