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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

がんの治療を受けながら、仕事を続けられますか?

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がんの治療を受けながら、仕事を続けられますか?

イラスト:さかいゆは

 日本では年間約100万人が新たにがんと診断されます。そのうち20~64歳の方はおよそ25万人で、働き盛りで突然がんと診断される方も増えています。2019年の国民生活基礎調査に基づく推計では、仕事を持ちながらがん治療のために通院している人は約45万人とされています。

人生の優先順位を考え直す

 仕事を持つ人ががんと診断されたとき、仕事と治療のバランスをどうするか、という問題に直面します。がんの診断は、仕事だけでなく、日々の生活や、家族との関わりなどにも大きな影響を及ぼします。これまでの人生で積み上げたものや、将来の可能性も含め、様々なことを見直し、優先順位を決める必要が出てきます。何かを優先することで、何かをあきらめなければいけないかもしれません。

 がんと向き合うだけでも大変なのに、やりたくてやるわけではない「がんの治療」が、突然人生の一部を占めるようになり、そのために何かをあきらめるというのは、とてもつらいことです。まわりの多くの人は、こんな悩みもなく、仕事に 邁進(まいしん) しているのに、「なんで自分だけ」と思うこともあるでしょう。

 人生の優先順位を考えなければいけないというのも、しんどいことではありますが、自分の人生にとって、何が一番大切なのかを考え直すことは、これから自分らしく生きていく上で、重要な作業になるようにも思います。

 がんになったのをきっかけに、優先順位を考え直し、仕事を辞めるという選択をする方もおられます。一方で、収入を得るためには仕事を辞めるわけにはいかない、という方も多くおられます。単に収入のためだけでなく、仕事にやりがいを感じている方も多く、社会において役割を担っていることも大きな意味を持ちます。仕事に寄せる思いや、人生において仕事が持つ重みは、人それぞれです。

仕事の悩みが生じたら、医療機関や勤め先に相談を

 国立がん研究センターの調査では、がんの診断時に収入のある仕事をしていた人のうち、退職・廃業した人は20%、退職・廃業はしなかったが休職・休業した人が54%でした。本当は働きたいのに、治療のために仕事を続けられなくなった方も多いようです。働きたい人が、がんの治療を受けながら仕事を続けられるように、仕事と治療の両立をサポートする体制が必要です。

 2018年に閣議決定された「第3期がん対策推進基本計画」では、「がんになっても自分らしく ()() きと働き、安心して暮らせる社会の構築」が重要とされ、「がん患者の離職防止や再就職のための就労支援の充実」が強く求められています。そのために、「両立支援コーディネーター」を育成・配置し、かかりつけの医療機関、および、勤め先の企業と連携しながら、「トライアングル型サポート体制」を構築するとしています。

 医療機関では、担当医や医療ソーシャルワーカーが相談に乗るほか、「がん相談支援センター」の支援を早いうちから受けられるように、その利用を促すことになっています。企業では、病気を抱える方に対し、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と仕事を両立できるように取り組むことになっていて、そのためのガイドラインも作成されています。 

 がんと診断されたら、あるいは、がん治療中に仕事上の悩みが生じたら、かかりつけの医療機関(担当医、医療ソーシャルワーカーなど)や勤め先(上司、産業医、人事労務担当者など)に相談するようにしましょう。全国のがん診療連携拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」は、その病院にかかっていない患者さんでも相談できますので、積極的に活用しましょう。

 支援体制は充実してきましたが、まだまだ、悩みを相談しないまま仕事をあきらめてしまっている方も多いようですので、まずは、上記のどこかに相談していただきたいと思います。がん研有明病院でも、がん相談支援センターを中心に、チームを結成し、 治療と仕事の両立支援 に積極的に取り組んでいるところです。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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