ヨミドクターメンバーズサロン
医療・健康・介護のコラム
高齢者と犬・猫が看取り、看取られ…ペットが持つ奇跡のセラピー効果
医療・福祉の専門家による講演会「第2回ヨミドクターメンバーズサロン」(ヨミドクター、一般社団法人読売調査研究機構共催)が、オンラインで開催された。「ペットと暮らせる特養から~認知症を癒やし、 看取 る犬・猫たち~」をテーマに、犬や猫と一緒に入居できる、神奈川県横須賀市の特別養護老人ホーム「さくらの里山科」の施設長で、ヨミドクターでコラム「 ペットと暮らせる特養から 」連載中の若山三千彦さんが、ペットとの触れあいを通じて、高齢者の心身にめざましいセラピー効果が生まれている様子を語った。(2022年2月15日開催。動画は こちら )
講師 若山三千彦・特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長
進行・聞き手 飯田祐子・ヨミドクター副編集長

高齢者がペットと触れあう効果について語る若山三千彦さん(左)と、ヨミドクターの飯田副編集長
高齢者がペットを飼う「悲劇」
飯田 皆さんこんにちは、ヨミドクター副編集長の飯田です。本日の講師の若山三千彦さんをご紹介します。若山さんは大学卒業後、高校教員を経て2012年、横須賀市に特別養護老人ホーム「さくらの里山科」を設立しました。この施設でのペットに関する取り組みで、2016年に日本動物愛護協会の日本動物大賞社会貢献賞を受賞されています。
弟さんは大変有名な研究者で、世界で初めてクローンマウスを実現した山梨大学教授の若山照彦さんです。若山さんが弟さんの研究の過程を描いた「リアル・クローン」という著書で、2000年に小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞しています。
若山 こんにちは。特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長の若山三千彦と申します。高齢者施設では、看板犬として玄関などに犬がいる場合が多いのですが、私達のホームでは、ペットの犬や猫とご入居者さまが一緒に暮らしています。
現在、日本で飼われている犬と猫は計1800万頭以上といわれています。また、65歳以上の高齢者の人口が約3600万人です。これだけ多くの犬と猫、そしてご高齢の方がいれば、高齢者とペットに関わる問題もいろいろと生じています。
保健所で殺処分される犬猫は、年間で合計2万3000頭以上。犬猫が保健所に持ち込まれる理由の過半数が、高齢者による飼育放棄だといわれています。飼育放棄といっても、実際には、高齢者が老人ホームに入ったり、あるいは亡くなってしまったりして飼えなくなった場合が大半だとみられています。
例えば、ペットを飼っていた一人暮らしの高齢者が、介護が必要になり、老人ホームに入居することになった場合も、ほとんどの老人ホームはペットと一緒に入ることができません。そのため、ペットが置き去りになり、中にはそのまま餓死してしまったなんていう例もあります。
また、ペットを置いては行けないと、老人ホームに入らずに無理をして一人暮らしを続けた場合でも、心身の衰えでペットの世話ができなくなり、自宅で共倒れということも。高齢者もペットも亡くなっていたという最悪の事例もニュースになっています。
高齢者福祉の使命は、高齢者を幸せにすることです。高齢者の中には、犬猫と一緒に暮らすことが幸せという方もいます。私は、高齢者を幸せにするために、犬や猫と一緒に暮らせるよう支援することを「伴侶動物福祉」と名付けました。これは、高齢者を幸せにすることが主眼で、動物愛護活動とは明確に異なるものです。その伴侶動物福祉の事例をご紹介していきたいと思います。
「余命3か月」を超えて
末期がんで余命3か月といわれた方が、愛犬と一緒に入居されたことがあります。その方は愛犬のチロくんと離れたくない一心で、入院もホスピスも拒んでいました。そして、チロくんと一緒に「さくらの里山科」に入居。10か月近くも元気に過ごすことができました。最後は、ご本人のご希望通り、枕元のチロくんに看取られてご逝去しました。
愛猫の祐介くんと暮らしていた後藤さんは、ご自身の体調が悪化してくると、自分が死んでしまったら、祐介くんはどうなるんだろうと心配で、なおさら体調が悪くなってしまいました。祐介くんと心中するしかないとまで思い詰めていたそうですが、「さくらの里山科」に祐介くんと一緒に入居すると、見違えるように元気になりました。
ホームで7年半、一緒に暮らし、祐介くんは15歳で亡くなりました。最期の瞬間まで、大好きな飼い主さんと一緒に過ごすことができました。
認知症の幻視が怖くなくなった
私たちの目的は、高齢者とペットが一緒に幸せに暮らせるようにすることです。「お年寄りの笑顔」だけを求めていたのですが、実際には、そのほかにも素晴らしい効果がありました。
効果のその1は、認知症の幻視に打ち勝つ効果です。山田さんという方はレビー小体型認知症でした。この病気は、夜に幻視が現れることが多く、山田さんも夜間に怖い幻を見るので、眠れなくなってしまいました。その結果、昼間に眠くなってしまい、運動量が減少し、食事量が低下してしまいました。そのため、体力が衰え、認知症が悪化する。認知症が悪化するから幻視がひどくなるという悪循環でした。
そして、「さくらの里山科」で、アラシという元保護犬と出会いました。アラシはてんかんの持病があり、1か月に何回か発作を起こして気を失ってしまいます。また、人の動作にもおびえるようなしぐさを見せていたので、虐待された過去があったのかもしれません。このアラシと山田さんが、なぜか気が合ったんです。
アラシはきっと自分だけをかわいがってくれる人を求めていたに違いありません。一方、山田さんは、一緒に夜を過ごしてくれるアラシの存在が必要だったのです。いつしかアラシと山田さんは同じ部屋で一緒に寝るようになり、山田さんは幻視が怖くなくなったのです。
認知症が治ったわけではないので、夜になると幻を見るのですが、アラシがいるから怖くない。夜眠れるようになり、昼間の活動が増え、すっかり元気になりました。アラシも見違えるように幸せな様子でした。
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