森本昌宏「痛みの医学事典」
医療・健康・介護のコラム
台風や低気圧が近づくと増す痛み…原因は「自律神経」に
“自律神経”がちょっとしたブームになっている。テレビが、雑誌が、その特集を頻繁に組み、書店には関連の書籍が数多く並んでいる。順天堂大学の小林弘幸教授の著書「眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話」がベストセラーとなっているのだ(私も購入した)。このブームの原因は、自律神経の乱れを改善させることが健康の第一歩である、との点が広く受け入れられていることにある。ふむふむ、なるほど。
体の機能をコントロールする自律神経
体には、大きく分けて三つの神経系が張り巡らされている。運動神経、感覚神経、自律神経である。運動神経は体のさまざまな部位の動きを調節しており、感覚神経は触っている感じ、痛み、冷たさや熱さ、さらには振動や圧迫を脳に伝える機能を担っている。そして、もう一つの自律神経は、心臓を動かし、内臓の働きを調整し、汗を出し……といった、体にとって基本的な機能をコントロールしているのだ。この自律神経の働きは、自身の意志で変化させることができないことから、植物神経系、不随意神経系とも呼ばれている。その中枢(司令塔)は脳の視床下部と呼ばれる部位にあって、全身の 末梢 器官に絶え間なく指示を送っているのだ。自律神経には、活動の神経、昼の神経である交感神経と、リラックスの神経、夜の神経の副交感神経の二つがあり、絶妙にバランスを保っているが、このバランスが崩れると厄介だ。
交感神経は何らかの精神的、肉体的刺激を受けると緊張する。交感神経の緊張状態とは、人と争っているさま、馬券を握りしめているさまなどを想像していただくとよい。カッと目を見開いて(瞳孔が開く)、胸はドキドキ、顔面は蒼白(血管が縮む)、手に汗を握っているはずである。一方で、満腹になって寝転がっていると、副交感神経の活動が活発になって内臓の動きが盛んになる。ちなみに、「食後にすぐに横になると牛になる」はうそだが、「逆流性食道炎」を引き起こす危険性があるのでお勧めできない。
気圧が下がると交感神経が優位に
本題に入ろう。自律神経が関わる痛み、である。交感と副交感、二つの神経のバランスは外部環境によって大きく変化するが、その卑近な例として「天気痛」がある。気象変化と関連して症状が変化する病気のことを「気象病」と呼ぶが、このうちで痛みを生じるものが天気痛である。台風や低気圧が近づく時など、気圧や気温の変化が生じると痛みが強くなる状態を指している。その原因には不明な点がいまだ残されてはいるが、気圧に関しては、下がると内耳にある気圧センサーからの信号で交感神経が優位になるとみられている。また、温度低下も交感神経を刺激し、痛みが発生すると考えられている。つまり、交感神経の興奮が痛みを増幅させるのだ。これら自律神経が関わる痛みでは、交感神経が主役となっているとしていいだろう。
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