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認知症ポジティ部

介護・シニア

認知症になっても、カレー店員にヨガ講師…「やりたい」「働きたい」気持ちは諦めないで!

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 認知症になったら何もできない、なんて思い込みはありませんか? 迷惑はかけたくない、と尻込みしていませんか? 「認知症ポジティ 」では、認知症になっても“ポジティブ”(=前向き、積極的)に生きるヒントや取り組みをお届けします。今回は、サポートを受けながら、自分らしく、前向きに活動する2人を紹介します。(板垣茂良、沼尻知子)

「働きたい」人材バンクへ

わたしを諦めない

新屋さん(右)のアドバイスを受けながら割り箸の袋詰めをする高田洋子さん(福岡市城南区で)=浦上太介撮影

 福岡市城南区のカレー店「もりぞう」。近くに住む高田洋子さん(60)は、昨年秋、地域の人たちや学生に親しまれるこの店で働き始めた。3月下旬の出勤日に訪ねると、 厨房ちゅうぼう で、付け合わせのサラダをお皿に手際よく盛りつけていた。

 1年ほど前、アルツハイマー型の認知症と診断された。清掃の仕事を辞めて自宅でテレビを見たり、散歩をしたりしてしばらく過ごした。でも、「働くことが好きで、体はまだまだ元気。できるなら働きたい」という気持ちがあった。

 ケアマネジャーに思いを伝えると、認知症の人を対象に仕事を紹介している福岡市の「オレンジ人材バンク」のことを教えてくれた。迷わず登録し、紹介されたこの店で、月に2回働いている。「一緒に働く仲間がいるのがうれしい」とほほえむ。

 出勤日は、午前11時半に夫の利男さん(76)が車で送ってくれる。茶色の帽子とエプロン、紺のポロシャツに着替えて約1時間、配膳用のトレーを拭いたり、割り箸を袋詰めしたりする。

 「この布巾で、トレーの表と裏を拭いてください」。店を運営するNPO法人「さんえす 未来咲舎みらいしょうしゃ 」の新屋厚さん(42)が一つひとつの作業の前に、丁寧に手順を伝える。新屋さんは「明るく前向きな仕事ぶりで、周りのスタッフも楽しく働くことができる」と話す。

 長崎県の農家に生まれた洋子さんは、両親がミカンやスイカを育てるのを、小さい頃から手伝っていた。結婚後も、2人の娘を育てながら、冷凍食品や縫製の工場で働いた。

 利男さんは、妻の勤務先から「言動におかしなところがある」と連絡があった時、「まさか」と戸惑った。「突然のことだった。すぐには信じられなかった」と振り返る。

 ただ、認知症と診断された後も、妻のことで長く落ち込むことはなかったという。人材バンクの話を聞くと、「本人がやりたいことなら」と二つ返事で賛成した。「認知症になる前と同じように、元気に過ごしてくれるのがうれしい」と目を細める。

 洋子さんは「給料をためて、娘や友人と食事や旅行に出かけたい。体のためにも働き続けます」と意欲的だ。

ヨガ講師 助け借りて

わたしを諦めない

「体が動くうちはヨガを教え続けたい」と話す村野美津子さん(神奈川県藤沢市で)

 「腕を上に持っていきましょう」「そのまま背伸びしますよ」――。神奈川県藤沢市のヨガ講師、村野美津子さん(78)が体を動かしながら元気な声で呼びかけた。ピンと伸びた背筋が印象的だ。

 認知症と診断された約5年前から、ボランティアとして活動。現在は、デイサービス「カルチャースクール亀吉」を利用する一方で、近くにある就労支援事業所で働く10~20歳代の障害を持つ若者らに週1回、ヨガを教えている。「参加者から頼られるのはうれしい」と笑顔で話す。

 ヨガ講師歴40年以上。体も動く。ただ、脳の 萎縮いしゅく により言葉の意味がわからなくなる種類の認知症で、「『あれ』『これ』が増えていく。言葉が少しずつ、頭の中から抜け落ちていく感じ」だという。

 だから、レッスンでは、ヨガの様々なポーズの写真に短い説明を添えたA4判のカードを生徒に示し、自分でも時々確認しながら進めていく。亀吉のスタッフが、ポーズごとに切り替えてくれる。

 「できないことは仕方ない。周りの人も助けてくれるし、割り切って生きていかなくちゃ」と前を向く。

 診断を受けた2017年の秋まで、藤沢市などの教室を車で飛び回っていた。教室を閉じることになり、落ち込んでいた時、「何か体を動かした方がいいんじゃない?」と主治医にボランティアを勧められ、一歩を踏み出せた。

 買い物帰りに道に迷い、パトカーで自宅まで送ってもらったり、ごみの分別が苦手になったりと、生活上の支障も目立ちつつある。体調が悪い日などは、「もう、続けられないかも……」と弱気になる。

 ただ、そのたびに、生徒たちの笑顔を思い浮かべて考え直す。「認知症になっても好きなことは諦めたくない。体の動くうちは続けたい」

意欲 企業とつなぐ・発信役「大使」任命

 認知症と診断された後の暮らしを、「自分らしい」ものにしてほしい――。そんな思いを込めた取り組みが各地で始まっている。

 高田洋子さんがカレー店で働くきっかけとなったオレンジ人材バンクは、福岡市が昨年設立した。働く意欲のある認知症の人を、趣旨に賛同した企業に紹介する仕組みだ。

 同市認知症支援課の笠井浩一課長は「周囲の工夫や理解があれば、社会で活躍できる。地域や企業と認知症の人をつなぎ、『認知症だから』という理由で働くことを諦めなくていい仕組みを作りたい」と説明する。

 就労のほか、試作品の使用感を伝えることで、企業の商品開発をアシストする役割なども担う。

 ヨガを教える村野美津子さんは、神奈川県の「オレンジ大使」の一人として、前向きに生きる姿を動画で発信している。「オレンジ大使には、高齢者施設で働き始めたり、ウクレレ教室で教え始めたりする人もいて、認知症になっても様々なことに挑戦する人たちの姿が伝わってくる」(県高齢福祉課)という。

 認知症の当事者として思いを伝える活動は、「本人大使」と呼ばれる。厚生労働省によると、10都県で計36人(昨年10月現在)が活動している。ほかに、国が任命する5人の「希望大使」もいる。

早い受診 支援につながる

わたしを諦めない

 あったことを思い出せなかったり、帰り道や日付がわからなくなったり、段取りよく料理するのが難しかったり……。脳細胞の働きが悪くなるなどして「できないこと」が増え、日常生活に支障が出るのが認知症です。漠然と不安に感じる人が多いと思いますが、症状の表れ方は人それぞれです。

 認知症と診断されたからといって、急に何もできなくなるわけではありません。介護サービスなどで適切な支援を受け、診断以前とそれほど変わらずに「自分らしい生活」を続けている人もいます。

 ただ、本人や家族が不安に思う点があっても、医療機関を受診するまでに時間がかかる、という調査があります。認知症に対する暗いイメージや誤解、偏見が影響しているのかもしれません。

不安 抱え込まず

 認知症の症状は一般に、ゆっくり進行していきます。今は、進行を遅らせる薬などはありますが、多くの認知症は治らないとされています。でも、診断でそれまでの日常生活が終わってしまうわけではありません。早めに対応することで、自分らしく生きられる時間を長くできる場合もあります。

 グループホームの管理者などとして認知症の人のケアに携わってきたSOMPOケアの武久信子さん(59)は「それまで本人や家族だけで抱えてきた不安や困り事について、専門医や地域包括支援センターの専門職に相談したり、介護保険サービスの利用を始めたりという『新しい道』を開くきっかけにしてほしい」と話します。

 好きな料理を作ったり、買い物でいつもの店に出かけたりできることは、「自分らしい生活」の大切なポイントになります。

 例えば、料理なら、ヘルパーに手伝ってもらいながら一緒に手を動かすことを続ければ、「できること」の維持につながります。買い物で道に迷ってしまうなら、付き添ってもらう手があります。

 「できないこと」を気にしてふさぎ込んで暮らすより、趣味の活動でもボランティアでも、交流の場をもって生活にメリハリを付けることも良さそうです。

「やりたい」尊重を

 新しいことになじめなくても、昔ながらのやり方に戻すなど、工夫することで改善できるケースもあるそうです。「お風呂でポンプ式のボディーソープの使い方が分からなくなっても、固形せっけんに戻したら自分で体を洗えることがある」と武久さんが教えてくれました。

 同居の家族らは、自分が代わりにやってしまうなど、安全を気にしすぎて本人の「できること」を奪ってしまう場合があります。でも、認知症の人にも、やりたいことや希望があります。その意思を大切にし、ケアマネジャーらを交えて日常生活を再構築していくようなサポートが望まれそうです。

 「人生100年」とも言われる長生きの時代、認知症の症状と向き合いながら暮らす時期が誰にでも訪れる可能性があります。「自分らしい生活」をできるだけ続けるためのポイントを紹介します。

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