宋美玄のわーままクリニック
医療・健康・介護のコラム
低用量ピルが普及しないのはなぜ?…「無料プロジェクト」を始めてわかったこと
避妊や生理痛の軽快など数々のメリットがある低用量ピルは、日本では普及していると言いにくい状況です。理由はいくつかありますが、SNSには「お金がかかるから使用できない」という声が目立ちます。そのため、女性が主体的に避妊できなかったり、生理痛やPMS(月経前症候群)にわずらわされながら生活しないといけなかったりしています。
困難な状況にある女性を対象に
そこで、個人クリニックとしてできることはないかと思い、「丸の内の森レディースクリニック」で昨年度から、「ピル無料プロジェクト(仮)」を始めました。
いくつかの団体にお願いし、このプロジェクトを女性たちに紹介してもらおうと考えました。利用したい患者さんをクリニックで募るよりも、普段から経済的な面などで困難な状況にある女性にアウトリーチしている団体から紹介してもらう方が、対象としたい人につながりやすいと考えたからです。ただし、今のところ、実際にご紹介いただいているのは「一般社団法人Colabo」さんのみ。チャットグループを作り、医療支援が必要な女性がいたらお知らせいただき、予約を取って受診していただいています。
健康保険証のある方は、保険診療も選択肢とし、生活保護の方や無保険の方、親バレが怖くて健康保険証を使いたくない方には自費診療で行っています。保険診療の場合、患者さんの自己負担部分は団体に支援していただき、後程同額を団体に寄附するという形で医療を提供しています。2回目からは自分で予約をとって受診していただいていますが、アフターピルの場合は、その都度、団体の方が事情を聞いてから受診していただき、処方しています。
初年度は55人の方に、延べ99回、お越しいただきました(カルテを作ってお待ちしていたけれど受診されなかった人を含みます)。自費診療52万0920円分、保険診療の3割負担17万3090円分の合計69万4010円分の医療を、クリニックからの持ち出しで行いました。アフターピル(レボノルゲストレル)19回、ミレーナ(子宮内避妊器具)1回、各種保険適用ピル(低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤など)が延べ100か月分、自費ピルが53か月分。その他には、痛み止め、妊娠検査、エコー検査、性感染症検査、血液検査、性感染症治療等です。各種ピルは、経済的負担なく30人に処方し、現在も継続中の方は17人です。無料プロジェクトの患者さんたちには、お金をいただかないだけで、他の患者さんと全く同じように接しています。オンライン診療で処方をしている方もいます。なるべく継続的な診療を心がけています。
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ゆうなつまま
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ピルの存在がもっと身近になれば、と切実に思います。つい最近、「お姉ちゃんの家に着払いで通販してもいいかな?」と妹から夜中に電話がありました。そんな頼み事は初めてだったので、事情を聞くと、「アフターピルが必要で…」と言ってきたのです。幸い妹は私に話してくれたので、すぐに対応できましたが、もしそうではなかったら、望まない妊娠、出産をすることになっていたのかもしれない…と思うと恐ろしいです。妹とは後日きちんと話さなければと思い、改めて避妊や自分自身の体との向き合い方などについて話し合ったところ、知識があまりにもなかったことに驚きました。妹は、普段からピルを飲むことについては消極的な考えのようで、お金がかかる、親バレしたくない(妹は実家暮らしなので)、副作用が怖いなど、理由をたくさんつけて飲まない選択をしてしまいました。コンドームがコンビニや薬局で簡単に買えるように、ピルも女性が主体的にできるスタンダードなものとして、身近で手軽に手に取れるものとなることを願います。
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