森永康平「患者と医師のコミュ力を育てる」
医療・健康・介護のコラム
「自分の臭いが気になるんです」と訴える10代男性…事実と解釈を見分ける
とある研究によると、9割の病気が診察室の中で診断できるということです。つまり、診察室で会って話す問診と診察だけで(一切検査もせずに)です。今回は、さらに体の診察もなしに、文字通り対話だけで解決した患者さんをご紹介しましょう(プライバシーに配慮し個人情報は変更しています)。
生活習慣、仕事、飲んでいる薬を確認
10代の男子学生さんが、「自分の体臭が気になる」と言って外来を受診しました。問診票を見る限りでは、これまでに大きな病気をしたり、薬を飲んでいたり、ということはなさそうです。「体臭」。これは、内科の外来で診る頻度が高い症状ではありませんが、これこそ腕の見せどころだろうと、診察を開始するまでのわずかな時間でパソコンを開き、情報を探ってみます。
「体臭=Bromhidrosis」というワードで診療のデータベースをあたってみると、メカニズムや様々な病気の候補がリストアップされています。「問題になる体臭は大部分が汗腺に関連あり、そこから汗腺の種類により2タイプに分類される」「アポクリン腺は 腋窩 (わき)、肛門や性器周辺、または乳房近くに分布している」「エクリン腺が由来の場合は限局することも全身から臭いが出ることもある」――と説明されています。さらに、エクリン腺由来の臭いには、ダイエットや食べ物(ニンニク、タマネギ、カレー、アルコール)、薬、代謝の病気、全身の病気(肝不全または腎不全、痛風等)など様々な原因や増悪因子があるようです。非常にまれですが、TVでも取り上げられた魚臭症(トリメチルアミン症)は食べ物を摂取、消化するときに発生するトリメチルアミンという物質が分解されず、息、汗、尿に排出され、文字通り体から”魚の臭い”がする病気です。
10分程度の短い時間の準備であっても、このあと患者さんに具体的に何を聞くかを意識することができれば、右往左往するということもなくなります。調べた成果を反映させて、生活(特に食事)習慣、仕事の内容、飲んでいる薬を確認して……。うん、何とかなりそうです。
「その臭いは今、感じますか?」
「〇〇さん、どうぞ~」
男性が入ってきました。シャイなのか、少し顔はうつむき加減。それでも、こちらを見て、しっかり「よろしくおねがいします」と声をかけてくれます。椅子にかけていただき、こちらも自己紹介を行い、診察を始めます。
「どうされましたか?」
「学校のクラスが変わった後くらいから、自分の体のニオイが気になってしまって」
ツラツラと言葉が出てきます。 第1回のコラム でお話ししたような「突然」の発症ではないようで、ひと安心です。ですが、話を聞いていくと、どこか他人事のようなフワフワした印象に違和感を覚えます。そこで思いきって聞いてみました。
「その臭いは今、感じますか? どのような臭いですか?」
私は診察中、まったく臭いを感じなかったからです。一緒に診察室にいた研修医、看護師も、アイコンタクトで同じ感想であることを伝えてきていました。患者さんの回答は、予想通り、「自分も臭いを感じていない」でした。
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