ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
福島原発事故で被災した猫の「福美ちゃん」 日なたぼっこで二度と会えなかった飼い主、我が家に思いはせ…
前回まで3回にわたり、福島原発事故の避難区域に取り残された被災犬「むっちゃん」の話を書いてきましたが、避難区域から特別養護老人ホーム「さくらの里山科」にやってきたのは、むっちゃんだけではありません。「 福美 ちゃん」という猫もいたのです。
福美ちゃんは、福島県双葉町のごく普通の家で幸せに暮らしていました。その生活が一変したのは2011年3月12日、東日本大震災に伴う福島原発事故によるものでした。飼い主さんに関する情報は何もありませんが、ペットを置いて緊急避難するよう行政から指示され、とるものもとりあえず避難バスに乗ったのだろうと思います。
これは想像ですが、取り残された福美ちゃんが生き延びられたのは、家にあったキャットフード全ての封を飼い主さんが切って、置いておいてくれたからではないかと思います。きっと、水もできるだけ大量にくみ置きしてくれていたのでしょう。
そして、最大の幸運は、家と外を出入りできる手段があったことです。元から猫用のドアがあったのか、それとも扉か窓を少しだけ開けておいてくれたのかはわかりませんが、外に出ることができたのです。そのおかげで、ボランティアさんが置いてくれた餌を食べて、命をつなぐことができたのです。
むっちゃんの話の時にも書きましたが、無人となった避難区域には、全国からボランティアが集まり、犬や猫の餌と水を置く活動をしてくれました。そのおかげで、たくさんの犬と猫の命が救われたのです。福美ちゃんやむっちゃんの命を救ってくれたボランティアさんたちには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
避難区域の住民がすぐには帰還できない見通しとなると、ボランティアの方々は、取り残された犬、猫の保護活動を始めました。福美ちゃんを保護してくれたのは、個人のボランティアさんだったそうです。保護された福美ちゃんは、まず、東京にあるその方の自宅で暮らし始めました。
しかし、個人のお宅で預かれる猫の数には限りがあります。いっぱいになってしまうと、そのボランティアさんは保護活動を続けられません。一方、避難区域には、救助を待っている、取り残された猫がまだまだたくさんいました。そこで、そのボランティアさんは、近くの動物愛護団体が運営する小さなシェルターに、福美ちゃんを託しました。
福美ちゃんは、そのシェルターでしばらく暮らした後、別の動物愛護団体が福島県内に設けた大型のシェルターに移ることになりました。住まいが決まらず、福島と東京にまたがって転々としなければならなかった福美ちゃんは、大変なストレスを感じていたことでしょう。しかし、仕方のないことだったのです。
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