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医療・健康・介護のコラム

『辺境の国アメリカを旅する――絶望と希望の大地へ』 鈴木晶子著

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『辺境の国アメリカを旅する――絶望と希望の大地へ』 鈴木晶子

 世界の中心とも言える超大国アメリカが、なぜ辺境の国なのか。その含意は、読み進むにつれて姿を現してくる。

 筆者は、日本国内で貧困問題や若者支援に長く取り組んできた。2017年に家族で渡米。新型コロナウイルス感染が拡大した20年4月には、ヨミドクターに、 「米国報告 パンデミックで際立つ命の格差」 と題した短期連載を寄稿している。

 滞在中、夫、幼い娘と巡った米国48州で見たもの、出会った人々についてつづった文章は、ほほえましい家族旅行の雰囲気を伝えるが、その道中でも、筆者の視線は影の部分に向けられる。ペンシルベニア州の旅では、祭りのにぎわいを抜けると現れた寂れた風景に、人口減少が続く地域の実情に思いをはせ、「(同州の)ジェファーソン郡の世帯年収(個人の年収ではない)の中央値は480万円ほどで、子どもの5人に1人が貧困だ。年収1300万円以上でも低所得と言われる西海岸との格差は大きい」とし、「彼らはどうして見捨てられてきたのだろう?」と問う。そして足は、かつて先住民たちが故郷を追われた草原地帯、奴隷制のもと、アフリカ系アメリカ人たちへの差別と迫害の歴史が刻まれた「南部」の町々へと向かう。

 あとがきにはこうある。「旅をするうちに、アメリカという国そのものが、居場所を失った人々が自由を求めて世界中からやってくる、世界の辺境のように思えてきた」。その辺境の中の辺境で、人々はどう暮らしてきたのか。そして日本にも、これと地続きの周縁がある。

 家族が出会った多様な米国と多様な人々、風景と食べもの……。肩肘張らぬ旅行記としても楽しめる一冊。

 (明石書店 1980円)

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